
世界の社会課題を解決する東北発スタートアップを目指す ~「経営者」視点で臨んだハンズオンプログラム~
これまで焼却や埋め立て処分するしかなかった混合廃棄物からポリエステルなどの原料となるPETモノマー(原料)を取り出す独自のケミカルリサイクル技術によって、資源循環のあり方を変えようとする取り組みが東北で進んでいます。
弘前大学 地域戦略研究所 特命研究員の金丸アラン氏に、事業の背景や技術の特徴、K-NICハンズオンプログラムで得た学びについて伺いました。

弘前大学 地域戦略研究所 特命研究員
金丸アラン 氏
<プロフィール>
大阪府出身。多文化環境(母:日本人、父:クウェート育ちのインド人)での育ちを通じ、幼少期から資源エネルギー課題への関心を醸成。カリフォルニア大学バークレー校エネルギー工学部卒業後、ベイン・アンド・カンパニー東京オフィスでのマネージャー、グラスゴー金融同盟での日本支部立ち上げを担当。現在はJST「ディープテックスタートアップ国際展開プログラム」採択プロジェクトにて経営者候補として混合廃棄物を許容する新PETケミカルリサイクル技術を起点とした大学発ベンチャーの創業を準備中。
原体験から始まった資源問題への挑戦
資源やエネルギーの問題に関心を寄せたきっかけは、中学生の時に訪れた中東の油田地帯での体験です。砂漠の中で灰色のガスが噴き上げている風景は “世界の終わり”を見ているようで、地下資源依存への問題意識を持ち始めました。その翌年、東日本大震災が発生しました。その出来事もあり、資源やエネルギーの問題が自分たちの生活と密接に関わる課題であると強く認識するようになりました。
その後、カリフォルニア大学バークレー校でエネルギー工学を学び、研究者を目指していました。しかし研究やインターンを経験する中で、技術だけでは社会は変わらないという考えに至りました。技術で世界を動かすためには「ビジネス」が必要であると考え、事業側へ進む意思を固めました。
コンサルファームに入社し、サステナビリティや産業分野の仕事に携わり、金融業の脱炭素化を促進する国連傘下の国際機関GFANZの日本支部の立ち上げにも関与しました。電力分野は再生可能エネルギーによって解決の方向性が見えつつある一方、化学や素材分野などの資源の領域では、依然として技術革新が必要です。様々な研究シーズや研究者との縁を探る中で、弘前大学の吉田曉弘教授と出会いました。吉田先生の持つ技術は、資源問題の解決につながる技術です。もし、自分が今も研究者を続けていたら、吉田先生と同じような研究をしていたのではないか、と感じるほどの出会いでした。何度も対話を重ねる中で、この人と一緒に事業を進めたいと強く思うようになり、参画を決意しました。世界で起こる紛争は、資源が要因で起きるになることがほとんどです。資源循環を通じて、少しでも減らすことができればいいと思いながら起業を準備しております。
混合廃棄物を対象としたケミカルリサイクル技術
現在取り組んでいる技術は、混合廃棄物を対象としたケミカルリサイクルです。
従来のリサイクルは、分別された廃棄物を前提としています。実際には、廃棄物はさまざまな素材が混ざった状態で排出されることが多く、分別が不十分なものはリサイクルされずに焼却や埋立てに回ってしまいます。そうした構造がリサイクル率の限界を生んでいます。分別工程にはコストがかかり、現場ごとのばらつきも大きいため、スケールさせることが難しいとされています。
ケミカルリサイクルは、廃棄物を化学的に分解し原料に戻す技術です。これまで広く普及してこなかった背景には、コストと処理効率の課題がありました。特に混合廃棄物を扱う場合、異物の影響やプロセスの安定性が大きなハードルになっていました。
私たちが持つ技術は、混合廃棄物を前提としながら、PETの原料を取り出すことを目指している点に特徴があります。分別工程への依存を下げることで、資源化できる対象を広げる可能性があるのです。一方で、事業として成立させるためには経済合理性も欠かすことができません。既存の石油由来の素材と同等、またはそれ以下のコストで供給できなければ、社会には普及しないでしょう。そのためにも、処理プロセスの効率化とスケール設計が重要な論点になります。
現在はパイロットプラントの立ち上げを通じて、数社の静脈、動脈側のパートナー企業様と技術の実証と事業性の検証を進めている段階です。
ハンズオンプログラムへの参加~長期視点で描く事業設計
K-NICハンズオンプログラムを知ったきっかけは、弘前大学に訪問いただいた東北経済産業局、NEDOからの情報提供でした。
実績のあるメンターから知見を得られる点が魅力的で、長期的な視点で事業を見直す機会になると考えました。ディープテック・スタートアップというとクールなイメージがあるかもしれませんが、実際には泥臭い作業の毎日でもあります。目の前の業務に追われる中で長期視点を持ち続けることの難しさを感じており、意図的に視座を引き上げる場としてプログラムを活用したいと考えました。
豊富な知見と高い視座を得られたプログラム
プログラムの内容は、期待通りでした。VCや事業会社と違ってポジショントークが無いので、フィルターなしでフィードバックいただけたことは非常に大きいです。ピッチのどの部分をどのように修正すべきかが明確に示され、それに対応していくことで資料の精度と事業理解の両方が高まっていきました。最終的には20〜30枚程度の資料が完成し、実際に米国やシンガポールの投資家への説明の際にもその資料を使用しました。まだまだ改善は必要ですが、彼らに刺さるストーリーを描けたと思っています。
過去コンサルファームに所属した頃から様々な経営判断の局面に関わってきましたが、自分自身が意思決定を担う立場となった今、メンターとのやり取りを通じて決断の重要性や取捨選択の方法がよりクリアに身についていきました。
東北から世界へ~資源・エネルギー問題を解決するスタートアップを目指す
創業に向け、ディープテック関連の人脈やネットワークを構築しながら準備を進めています。現在のチームはCEOやCRO、エンジニアなど、それぞれの専門性を持つメンバーで構成されています。ディープテック領域では、技術開発に加えて事業設計や資金調達を並行して進める必要があります。役割ごとに適切な人材を配置することはもちろん、メンバーの事業ビジョンが深く合致していることが重要になります。優秀な研究者やビジネスパーソンに参画してもらうには相応のやりがいや機会を提供すべきだと考えており、経営者として緊張感をもってチームアップと事業推進に取り組んでいます。
創業は来年を予定しています。1年以内にパイロットプラントを稼働させ、技術実証を進める計画です。その後、経済合理性の面でも既存素材と競争できる状態を目指します。企業との連携によるスケール展開を視野に入れ、約10年後には地域単位で資源循環が成立するモデルの構築を見据えています。
資源循環の仕組みが確立されることで、環境負荷の低減だけでなく、資源確保や社会構造にも影響を与える可能性があります。自身の原体験もあり、世界の社会課題を解決する事により事業成長する東北発スタートアップを目指しています。
迷うなら応募を!-プログラム応募を検討している方へ
ハンズオンプログラムに応募することにデメリットはなく、得られるものしかないと思います。ポジショントークのないメンターと議論できる機会は大変貴重であり、短期間で事業の解像度を高めることができます。知見あるメンターの方々と議論を深めることは、純粋に楽しい体験でもあります。日々の課題だけでなく、長期的な視点で事業を捉え直す機会としても有効なので、検討している場合はぜひ一度参加してみてほしいです。

3/18開催「K-NIC Deeptech Meetup2026」ポスター展示の様子

研究開発型スタートアップ成長支援プログラム
「Startup Hands on Program」とは
研究開発型スタートアップを目指す方のために、K-NICが実践的なハンズオンプログラムを提供します。経験豊富なメンター2名が技術シーズを確実にビジネスに変換する2ヶ月間の集中支援プログラムです。NEDOの支援事業採択やVC調達実績を持つ専門家が、事業プランを徹底的にブラッシュアップします。
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