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起業家インタビュー

シニア起業家が世界に挑む ロボセンサーが拓く産業機械・医療・介護のこれから

K-NIC会員の研究開発型ベンチャー・ロボセンサー技研株式会社にインタビュー!

シニア起業家が世界に挑む ロボセンサーが拓く産業機械・医療・介護のこれから

川崎市にある起業家支援拠点&コワーキングスペース・K-NICを利用しながら活躍されている起業家に、
起業までの軌跡やK-NICの便利な活用方法などをインタビューするシリーズ。

今回は、Kawasaki Deep Tech Acceleratorへの採択やイノベーションリーダーズサミットでトップ20に選出されるなど、波に乗っているTechベンチャー、ロボセンサー技研株式会社の大村昌良さんにインタビュー!

富士通やヤマハなどで30年以上も半導体開発をされていた大村さんが起業に至った経緯やシニア起業の苦労など、現在に至るまでのエピソードをうかがいました。

起業家プロフィール

ロボセンサー技研株式会社
URL:https://robosensor.co.jp/

大村 昌良氏/代表取締役
富士通株式会社、ヤマハ株式会社にて半導体やセンサーの技術開発に従事。業界で30年以上の経験を積む。再就職をするも年齢で切り捨てられた経験から一念発起して起業。障害を持つ子どもとの関わり中で感じた課題を解決するために、試行錯誤の後、独自のワイヤー状ピエゾセンサー技術を開発した。

家族の応援ではじまった起業

――大村さんの事業について教えてください。
医療・介護、産業機械分野において「触感センサーによる触れる喜びの実現」「Innovate Sensing Solutions」「あらゆる振動をノイズレスで計測可能に!」を掲げ、高感度で極細なピエゾ電熱センサーを開発しています。
従来のピエゾ電熱センサーは、電源から発せられるノイズが原因で感度の高い計測ができず、電線も太くて曲がらないため、活用範囲の狭いものでした。当社が開発したロボセンサー®は、直径0.5mmと極細で、ノイズを拾うことなく0.1Hz~1MHzをこれ一つで計測できます。機械の故障予兆が表れる50k~1,000kHzや人の呼吸や触感である0.1Hz~500Hzを測ることができ、さらに柔軟で軽量のため、産業機械のほか、遠隔医療や介護に活用が期待できる技術です。

ロボセンサー

――起業のきっかけは何だったのでしょうか?
障害を持つ息子や身体の不自由な方のために、何か開発できないかと思ったのがきっかけです。
身体に不自由を抱え、手足を動かさないでいると拘縮してしまうので、常にマッサージやリハビリをしなくてはなりません。毎日何回もマッサージをする親の負担はとても大きいものでした。息子を養護学校に通わせていた時、同級生に手の不自由な子がいて、マッサージをするご両親や養護学校でリハビリや機能回復訓練を行う様子を見ているうちに、何かできることはないかと考えるようになりました。
最初はその問題を解決するため、触感センサー付きのマッサージ用ハンドロボット事業で起業しました。しかし、協力者を募るため各地を回っているうちに、資金が厳しくなり…。このままでは無理だと専門家の先生に相談した際、独創性のあるワイヤー状ピエゾセンサーなら勝機があるとの判断で、ワイヤーセンサーの応用先の開拓を進めました。

――はじめはハンドロボットだったのですね。企業で30年以上も半導体の開発をされていますが、以前から起業を考えていたのですか?
実は起業前に転職して勤めた会社が業績不振になり、解雇されてしまったのもきっかけの一つです。再就職のために100社以上も履歴書を送りましたが、最終面接では年齢で切られてしまいました。「当社に来ても数年しか働けない。今から技術を覚えても定年ですよね?」と言われました。経験もあるし、成果を出して会社に貢献できると伝えても、結局は年齢で切られてしまう。それなら自分の得意な分野で起業しようと。はじめのうちは家族のために何とか就職しなくてはと思っていました。でもその時に、妻が「やりたいことがあるなら、思いきってやってみたら」と言ってくれて。いわゆる「シニア起業」でしたが、家族の支えと自分の楽観的な性格が幸いして、起業を決意できました。

――ハンドロボットからピエゾ電熱センサーに切り替え、販路も医療・介護から現在は産業機械分野に力を入れていますよね。
そうですね。お金がなくなって倒産しかけた時、ある先生から「“幸せ”は心のコップから溢れないと人に分けてあげられない」と言われました。心に余裕ない状態では、幸せを分け与えるどころか、人から施してもらわないといけないですよね。これを会社経営に置き換えるなら、まずはしっかり儲けることで、世のため人のためになるような仕事ができるのだと思いました。事業の方向性が変わったのはそれからです。2019年の前半までは医療・介護領域をターゲットに製品開発していましたが、引き合いはあるものの売り上げが立たない状態が続いていました。しかし、当社の技術を知った産業機械関連のお客さまからニーズのお声をいただき、BtoBの注文を受けることにしました。現在は医療・介護分野の開発と並行して、産業機械に使用できるセンサーの量産化を目標にしています。

シニア起業への風当たりは冷たい?

――シニア起業に関して不安はありませんでしたか?
ヤマハ時代にプロジェクトマネージャーとして40名ほどを束ねていたこともありますし、転職を2度経験して中小企業の内部もよく知っていました。製品開発から販路開拓や、外部研究機関との連携など、自分の経験でできることは多いと感じていました。

――実際に起業してみて、苦労された点はありますか?
資金面が最も苦労しました。再就職の時と同様に、VCからは年齢をリスクに思われることが多かったです。「あと5年先も元気ですか?」なんて言われてしまうと…元気に決まっているじゃないですか!(笑)5年先でも平均年齢より10歳以上も若いのです。
シニア起業家については豊富な社会人経験や積み上げてきた技術力など、もっと評価いただけると嬉しいなと思いました。そのほかにも、一人で事業をしている期間が長かったので、一人の会社にはお金は出せないと言われることもあり、資金面は本当に苦労しましたね。

――シニア起業の課題は資金調達なのですね。大村さんはどのように解決したのでしょうか。
色々なビジネスコンテストやアクセラレーションプログラムに応募して、とにかく外に出ることをやり続けました。そのうちに、資金調達に続くつながりが生まれていきます。
もちろん、すべてが順調だったわけではありません。悔しいことですが報酬を前借させていただいたり、妻に「明日払うお金がない」と言われて生命保険を解約したり…色々なことがありました。一方で、地元浜松の技術系企業が開発資金を前払いしてくださったり、新たに出展したイベントで技術が話題になって顧客がついたり、外に出てアピールしてきたからこそ、できたつながりがあります。今ではJカーブと呼べるほど業績も回復し、この1年で950倍の売り上げとなりました。シニアこそ、これまでの経験を武器に、年齢を気にせず、どんどん外へ出てつながりを作っていくべきだと思います。
そうした活動は資金調達だけでなく、良き人材との出会いも生みます。例えば、他社との差別化に成功し、売り上げにつながった高感度のセンサー技術。これにこだわって最後まで妥協せず開発してくれた社員は、ビジネスコンテストでの受賞を新聞で知り、面白い技術だと言って入社してくれたヤマハ時代の元同僚でした。ほかのメンバーも、退職後に面白いことをやりたいと思って集まってくれた人が中心です。定年で諦めずに「まだできるぞ!」という気持ちで活動していけば、だんだん仲間は集まってきます。それを積み重ねていくと、VCの目の色も変わっていきますよ。
また、起業のイベントはどこに行っても若い人たちばかりです。経済産業省が行っている「始動Next Innovator」では、私が最高年齢でした。そういった中でも臆することなく、若い人たちと一緒になってやっていく「気持ちの若さ」も大切だと思います。

K-NICとのつながり

――K-NICを知ったきっかけは?
Facebookで知人が紹介しているのを見たのがきっかけです。当時、資金調達が上手くいっておらず、ピッチが苦手という自覚もあったので、K-NICで開催していたピッチスクールに参加しました。技術者なので、それまでは技術のことを詰め込んで話していましたが、専門家の指摘を受けて改善していくことで、相手の興味に照準を合わせて伝えるスキルを身につけることができました。例えば「触感センサー」にはとても興味を持ってもらえます。視覚や聴覚は目や耳の機能ですが、触覚は身体の全体にあり、第二の脳とも言われます。身体のどこにでもあるから、色々なことに活用できると感じてもらいやすい。技術を活用することで訪れる未来を伝えることで、受けの悪かったVCの関心を引き込むことができるようになりました。

プレゼンスクールの様子

2019年7月にK-NICで開催したプレゼンスクールに参加した大村氏

――K-NICのような起業支援施設を活用するメリットはありましたか?
地方の起業支援施設ではスモールビジネスを考えている方が多く、私が取り組むセンサー事業とのビジネス規模の違いを感じることが多々ありました。グローバル市場を念頭に置いたビジネスをするのであれば、ビッグビジネスを考えている人たち向けのイベントに参加して、自分の世界観を広げていくことが大切だと思います。その点でK-NICは、NEDOをはじめ、大きなビジネスを考えている技術者やそれに応じたサポーターがいるので、的確な意見や助言がいただけて非常に有効だと思っています。

触感が世界の距離を近くする シニア起業家の描く未来

――様々な苦労があったと思いますが、大村さんは起業してよかったと思いますか?
色々な経験ができて、人生を楽しめていると思います。ただ、リスクもあります。大きな決断をしたことで資金的なトラブルもありました。それでも一番苦しい時に支えてくれた家族には感謝しかありません。おかげで、毎日夢に向かって進んでいる実感があります。

――最後に、今後のビジョンを教えてください。
直近の課題は量産化です。性能が良いこともわかり、顧客からは早く量産してほしいと言われています。資金調達やヒューマンリソースの確保も含め、事業を安定させて継続的に成長していけるよう進めています。今後は世界展開を進めていくと同時に、ワイヤーセンサーの領域では、プライスリーダーになりたいと考えています。
遠隔でも触感を通じて触れ合うことができるようになれば、世界中の様々な人々とリモートで触れ合う実感が得られるようになります。そうすれば、障害や身体に不自由を抱えていても行動範囲や活動の選択肢が広がり、もっと自由な世界を描けるようになるでしょう。ロボセンサーでセンシング技術を改革し、距離・コスト・身体などあらゆる不自由を越え、誰もが触れ合う喜びを感じられる自由な世界を実現していきたいと思います。