
成功する研究開発型スタートアップの共通点ってなんですか?
川崎市にあるコワーキングスペース&起業支援施設「Kawasaki-NEDO INNOVATION CENTER(K-NIC)」では、研究開発系スタートアップ支援の経験が豊富である3名のスーパーバイザー(以下SV)が参画しています。
今回はSVの尾﨑さんに、研究開発型スタートアップを取り巻く環境や、スタートアップを立ち上げることの意味について、お話しいただきました。
K-NICのSVとは
専門的知見が豊富な、研究開発系スタートアップの支援のプロフェッショナル。K-NICメンバーへのメンタリングをはじめ、支援人材や連携機関などとのマッチングなどの幅広い支援を行っています。
尾﨑SVについて
2004年九州工業大学大学院・工学研究科物質工学専攻修了。コンサルティング会社にて企業の新事業・新商品開発支援に携わる。2009年S-factory創業、企業に加え、自治体、NPO、スタートアップに対し支援を行う傍ら、官公庁等のアドバイザー等歴任。業種業態問わず、またその事業ステージによらず、それぞれの課題に応じた支援を実践。現在、TXアントレプレナーパートナーズ副代表理事、NEDO技術委員、NEPスーパーバイザー、筑波大学国際産学連携本部 客員教授、北陸先端科学技術大学院大学 客員教授も兼務。

事業を作る側にいつづけてきた20年
もともと九州工業大学で化学系の修士課程を修了しました。周りの友人たちは一部上場企業に就職していましたが、僕は「30歳で独立したい」と決めていた。だから最初から社員10人ほどの新規事業専門のコンサル会社に入り、4年半働いた後に独立しました。以来ずっと、事業をつくる側にいます。
現在はK-NICでスーパーバイザーを務めていて、スタートアップがどう事業を回し、どう成長していくかの支援をしています。筑波大学では客員教授として起業教育や教員向けの事業化講座を担当し、NEDOの「DTSU」、JSTの「D-GLOBAL」など国の研究支援プログラムでは審査員も務めています。国の委員会やプロジェクトにも多数関わっており、研究開発型スタートアップの“目利き”として、社会と事業をマクロ・ミクロの両面から見ています。
実はテック系だけでなく、飲食店の顧問や自治体のアドバイザーなどもしています。ただ今の時代、特に注目されているのは研究開発型、いわゆるディープテックスタートアップ。国も本腰を入れており、「研究開発を国力に」という流れがここ数年で一気に加速しています。20年ほど、支援者としてそのド真ん中にいながら、ある意味、泥臭く、いろいろなことを経験してきました。
この国をもっと面白くしたい、いろんな人がチャレンジできる世界にしていきたい、という思いがあります。
何故K-NICのSVに?
NEDO・川崎市・川崎市産業振興財団がこの拠点を始めるときに、当時の川崎市の方から「スタートアップをしっかり育てたいが、どういうアレンジをすれば良いか」と相談されたことがきっかけです。「それなら僕も一緒にやります」と答え、施設の立ち上げから入ることになりました。スーパーバイザーは複数いた方が良いだろうということで、仲間も誘いました。
そして、川崎のポテンシャルを感じたことも大きいです。川崎市は、大企業の研究機関や中小企業の町工場、そして大学が集積していて、羽田空港にも近い。ここで、“人”を中心にした支援拠点ができたら面白いなと思いました。スタートアップが「あそこに行ったら何か起こる」と思える、 “場の力”を感じられる拠点にしたいと思っていました。
ディープテックスタートアップを取りまく日本の現状
日本はもともとサラリーマン社会で、個人が大きな資産を築きにくかったことも関係しているのか、日本のスタートアップ・エコシステムはまだ発展途上です。IT業界では成功者が次世代のITスタートアップに投資する循環が生まれていますが、ディープテックではまだその輪が回っていません。ディープテックでの成功例はまだまだ少なく、利益を次世代へと循環させていく仕組みが未成熟です。
銀行もディープテックについては「時間がかかる」「リスクが高い」と慎重で、IT投資家も得意分野外には基本的には出資しません。リスクマネーが出てこない。宇宙、バイオ、医療などの分野でイグジットした例は出てきていますが、全体としてはまだ小規模。次のファイナンスを生み出すまでの“循環構造”ができていないのが現状です。
また、国は補助金や支援プログラムを拡充していますが、先述した要因もあり支援人材の層が薄く、適切な支援ができていないこともあります。そこでNEDOが始めた「スタートアップサポーターズアカデミー(SSA)」のように、支援者を育てる取り組みが動き始めています。僕自身も講師として参加し、若い支援者を育てています。
研究者が起業するのは、合理的だということ
昔は「研究者が起業なんて無謀だ」と言われていました。でも今は違う。研究を続けるには資金が必要で、起業はむしろ合理的な選択になってきています。大学に籍を残したまま経営を外部に任せるケースや、EIR(起業家・研究者連携制度)などの制度も整ってきました。アメリカでは研究者が起業して事業を成長させていくのなんて当たり前で、日本もようやくその流れになりつつあります。
国の競争的資金も「社会実装を前提にした研究」でないと採択されにくくなっており、研究者が起業するのは時代に合った動きです。昔は“変わり者”扱いだった起業家も、今では社会にずいぶん認知されはじめています。国やVC、支援機関の支援も拡充してきており、起業家が社会を動かすフェーズに入っていると感じます。僕はそこに希望を感じています。
成功するスタートアップの共通点とは
成功と失敗の分かれ目は、一番は“人”です。技術ももちろんですが、まずは素直さと行動力。僕らが最初に見るのは「その人がコーチャブル(学べる姿勢)かどうか」。例えばK-NICでは「ハンズオンプログラム」を年2回開催しています。このプログラムは約2カ月しかないので、人の話を聞けない人は成長しません。経営スキルよりも、まずは動けるか、フィードバックを吸収できるかが大事です。もちろん、自分の中に核となるものがあるかは大切です。でも、それを持っていたとしても、いろんなものに触れて磨かれないとただの石のままだし、逆にいくら磨いたとしても、コアがない人は自分をどんどん摩耗させていくだけ。コアも磨いて初めて、価値のある“玉”になるんです。
研究者でも、何かに気づいた人はどんどん動きます。経営の経験がなくても、CEOを他の人に任せることもできます。「俺が全てやる」と固執するとかえって失敗する場合もある。自分の強みと弱みを理解し、補い合えるチームをつくれる人が伸びます。そして気概と覚悟のある人に、人もお金も集まってきます。
起業は“幸せの形”のひとつ
社会実装の手段は起業だけではありません。共同研究やライセンスアウト、スモールビジネスでもいい。スタートアップは、あくまで手段の一つです。
「自分の手で技術を社会に出したい」と思う人には起業が向いていますが、「技術を社会実装したいが表に出たくないし、このまま研究を続けたい」という人は別の手段のほうが幸せなこともあります。
ただ、研究開発型スタートアップは研究開発投資や検証コストが大きく、一般的に時間もかかり、返済できる蓋然性が乏しいと思われがちなため銀行融資はほぼ難しい。VCなどからリスクマネーを入れてもらうスタートアップ型の方がフィットするケースが多いです。とはいえ、全員がその道を選ぶ必要はありません。自分のマインドと事業の性質に合った形を選ぶことが大切です。
起業の醍醐味は、自分たちの手で社会を変える実感や、仲間と挑戦する熱量を味わえること。ヒリヒリしながらも前に進むあの感覚は、やはり特別です。
K-NICとハンズオンプログラム
僕が担当しているメインの支援プログラムは「K-NICハンズオンプログラム」です。約2カ月間の集中支援で、スタートアップが抱える課題を一緒に整理し、成長戦略を立てていきます。もしKNICで一緒に伴走してもらいながら進めたいのならこのプログラムが一番の入口です。その他、動画で学べるプログラム「K-NIC Starters Program」では、起業の基礎から実践的なポイントを学ぶことができます。
K-NICは起業支援拠点なのでもちろん起業を前提に支援をするものの、ハンズオンプログラムの中では受講者にとって最適な社会実装のあり方を一緒に見つけていくプロセスにもなっています。結果として共同研究やライセンスアウトを選ぶ人もいる。プロフェッショナルが揃っているからこそ、そういった幅広い選択肢の検討を共に進めていける場所だと言えます。

まずは早めに来てほしい
最初に考えたアイデアが、そのまま社会に出ていくことなんて、ほぼないです。軽いピボットなんてみんな何回もやっているし、なかには180度方向転換して、気づいたら360度回って戻ってきた、なんてケースもある(笑)。だから、全然違うテーマに変わることも普通にあります。
僕らメンターの立場から見ても、「あ、これ違うな」っていうのは、だいたい初期の段階でわかる。たとえば「この方式は量産を見据えたうえでは筋が悪い」とか「すでに先行しているプレイヤーがいて強固なしくみになっている」っていう感じで。でも、そこから一度ゼロベースで考えて「じゃあこの研究の強みの本質はこれじゃない?」とか「こういう市場で活かせますよ」って方向修正していくのも含めて、支援の醍醐味です。
だからこそ、できるだけ早く相談に来てほしい。初期設定の段階で一緒に考えれば、修正も小さく済むし、次の打ち手も早く見つかる。ピボットを繰り返しながら事業を磨いていくのが当たり前の世界なので、まずは躊躇せず来てほしいです。僕も、20年やっている経験の中でどちらかというと「発破をかけるタイプ」ではあるけど、話をしながら人間関係を作っていくことも大事にしています。早く動けば、それだけチャンスも多いですよ。
