
メイド・イン・ジャパンのロボットを世界へ 夢を加速させるK-NICという通過点
人間のように周囲の環境を理解し、自律的に行動できるロボットの実現を目指すKanaria Tech株式会社。モバイルロボット向けAI基盤モデル「KRM」を開発する同社は、現在シードラウンドの資金調達と社会実装を進めています。
今回は、K-NICハンズオンプログラムへの参加を通じて得た学びや、世界展開を見据えた今後の展望について、代表取締役CEOの瀧下奎斗氏に伺いました。
【プロフィール】

Kanaria Tech株式会社 CEO(代表取締役社長) 瀧下奎斗氏
株式会社Kanaria Techの創業者兼CEOとしてロボット向け基盤AI「KRM」の開発をリード。
立命館大学大学院でAI・ロボティクスを研究する傍ら、「ロボットの頭脳」を世界標準にすることを目指し、研究開発と事業づくりに取り組む。
11歳でロボット開発を始め、NASA Global Education Programへの参加や火星探査ローバー設計コンテスト優勝などの経験を経て、現在は人と共存する次世代ロボットの実現に挑戦。
ロボットが誰にとっても身近な存在となる社会を目指し、技術とビジネスの両面から価値創出に取り組む。
AI基盤モデル「KRM」で、人間と同じように世界を見て動くロボットを実現
私たちは、モバイルロボット向けの自律走行ナビゲーション基盤モデル「KRM(Kanaria Robotic Model)」を開発しています。
センサーに頼らず、カメラを使って人間と同じように世界を見て自律的に行動できるロボットの実現が目標です。従来の技術は「ルールベース」と呼ばれ、何万行もコードを書いてルールを規定しますが、KRMは動画から「正しい物理法則」を自ら学びます。
KRMの強みのひとつに「学習データの選定プロセス」があります。海外の競合が2,000時間規模のデータを要する領域でも、私たちは独自のデータ選定により、「20時間の学習」で同等レベルの動きを実現しました。
学習素材を特定のロボットで撮る必要はなく、「一人称視点の動画」であれば何でも活用可能です。少ない資金と資源で、低コストに効率よくロボットへ「脳」を宿す技術が、私たちの「Kanaria Tech」の技術です。
子供の頃からの夢を追いかけて~大学で出会った「AI」で新しいロボットを目指す
ロボットに興味を持ったきっかけは、子供の頃に観た映画「ベイマックス」です。幼い頃からずっと「ベイマックスをつくりたい」という想いを持っており、大学進学の際にはロボットに加え英語も学べる環境に身を置こうと、海外の大学を目指しました。ですが、当時の世界はコロナ禍真っ只中。海外への留学を断念せざるをえなくなり、日本で英語とロボット工学が学べる大学を探し、立命館大学への進学を決めました。実は当時、入学時点で英語はほとんどできませんでした。入試の英語論文では何を書けばいいのか分からず、原稿用紙の一番上に1行だけ「ベイマックスをつくりたい」と書いて提出しました。それでなんとか合格することができました。
大学では、ロボット研究を志そうとしたのですが、研究室の倍率が高く希望が通りませんでした。代わりに入ったのが「AI」の研究室。ですが、どうしてもロボット研究を諦められず、自分でロボットを買ってきて、教授にプレゼンテーションをして直談判(笑)教授が「そこまでしたいなら、ロボットの研究をしてもいいよ」と言ってくれ、AIの研究室に所属しながらロボットの研究をすることができました。
結果的に、AIとの出会いが今の事業につながっています。
もしロボットだけを作る研究を志していたら「既存技術を改良していいロボットを作る」という考えになっていたと思います。AIについて学ぶことで「まったく新しいロボットを作る」ということを自然と志せるようになったことは、非常に大きいと思います。
Kanaria Techを創業したのも学生時代です。大学で出会った友達たちと意気投合し、今の事業アイデアで起業することを決めました。大学を卒業して就職してしまったら、起業へのハードルが高くなるように思いましたし、だったら「失うものが何もない学生のうちにやっちゃおう!」と、友人たちと一緒に創業しました。
5億円の資金調達。そしてNEDOの補助金申請への挑戦
昨年、プレシードラウンドで7,500万円を調達し、現在はシードラウンドで約5億円規模の資金調達を進めています。その中で挑戦したかったのが、NEDOのDTSU(ディープテック・スタートアップ支援事業)でした。
実は前回の資金調達時には、NEDOの補助金の制度を知らなかったんです。DTSUは民間からの調達額に応じて大きな補助を受けられる制度で、研究開発型スタートアップにとっては大きなインパクトです。今回はシードラウンドの資金調達の際に、絶対に挑戦したいと思っていました。ただ、これまで補助金申請の経験がなく、いざ申請しようにも、申請書に何をどう書けばいいのか、さっぱり分かりませんでした。
申請方法に迷い、大学や中小機構(中小企業基盤整備機構)の方に相談する中で、「K-NIC Startup Hands on Program」を紹介して頂いたのが本プログラムを知ったきっかけです。すぐに応募することを決めました。
「自分で書いている感覚」を持ちながら進められたメンタリング
プログラムへの参加を通し、審査する側の視点を得られたことは、大きな財産となっています。例えば、DTSUの審査員には、大学の教授職の方がいるため、そういった方に納得してもらえるように、数値やエビデンスをきちんと示すことや技術的な優位性を客観的に説明することが重要だと学びました。申請書の考え方そのものについて学ぶことができたと感じています。
他にも、DTSUのどのフェーズに応募するべきかという戦略面でも多くの助言を頂きました。調達実績だけで言えば上位フェーズへの応募も可能でしたが、補助金の採択実績がない状況で闇雲に挑戦するのではなく、まずはSTSから実績を積み上げる方が現実的だという最終判断をしました。制度の捉え方や成長戦略まで含め、伴走していただけたことが心強かったです。
メンターの方々が、非常に柔軟だったことも印象的でした。答えを押し付けるのではなく、複数の選択肢を提示した上で「瀧下さんはどう考えますか?」と聞いてくださるんです。自分で選び進めていくことができたため、「自分で書いている」感覚を持ちながら申請書を作ることができました。
ハンズオンを通じて補助金申請へのハードルは大きく下がったと感じています。
ハンズオンを終えた後、Go-Tech事業や東京都の新製品・新技術開発助成事業など、他の制度の申請にも挑戦することができました。
信じてくれるメンターと広がるネットワーク
プログラムに参加して一番良かったのは、さまざまな方とネットワークを繋いで頂けたことです。今の自分のネットワークでは出会えない方々と意見交換をしたり、申請に向けてアドバイスを頂けたりしたことは、非常に貴重な経験でした。
メンターの方々は、単なる支援者ではなく「チームの一員」として伴走してくれている感覚がありました。特に印象に残っているのは、メンターの方が「Kanaria Techはユニコーンになるんだから」と激励を送ってくださったことです。「私たちを信じてくれているんだ」と感じました。こうした信頼できるメンターとのやりとりも、大きな力になりました。
開発拠点は“日本”。AI×ロボットで“メイド・イン・ジャパン”の復権を目指す
現在は滋賀県草津市で実証実験を行っています。2024年から開発を続けてきた技術が、ようやく公共の場で動き始めました。今年からは売上を作り、来年以降は利益を出せる会社にしたいと思っています。現在は開発から販売フェーズへの移行を進めており、知名度を上げていくためにYouTubeなどのSNSや、各種メディアへの露出・PRにも力を入れています。
数年以内に、海外展開も見据えています。2028年にボストン、2029年にはヨーロッパやシンガポールへの展開を予定しています。ただ、譲れないことは「開発拠点は日本に置く」ということです。
2000年代は日本のロボット産業が世界をリードしていましたが、今は中国やアメリカの企業が大きな存在感を持っています。しかし実際にはロボットに使われる部品や要素技術の多くが、今でも日本製です。私たちは、ハードウェアはもちろん、ロボットの“脳みそ”にあたるAI技術をも日本発で開発することで、「メイド・イン・ジャパン」のロボットを日本から世界に届けたいと思っています。
会社としては、2030年から2032年にエグジットを目指しています。
「これがやりたい」の芯を持つ ~ 応募を検討している方へ
補助金申請や事業計画書は、初めて取り組もうとすると分からないことや難しいことがたくさんあると思います。私も最初は「本当に自分たちが応募していいのか」「どうやったら採択されるのか」と不安がありました。
でも「これがやりたい」という“芯”となる信念があれば、書類審査はもちろん、面談審査の際に、どんな角度から質問されたとしても答えに窮することはないと思います。「絶対これをやりたいんだ」というやり遂げる気持ちがあるのであれば、きっと採択されると思いますし、挑戦してみることに、損はないと思います。
