K-NICマガジン

最高の翻訳者と共に目指す、技術でつくるあたらしい「健康」の形

最高の翻訳者と共に目指す、技術でつくるあたらしい「健康」の形

コアな技術を持つ研究者集団が、いかにして持続可能なビジネスを構築し、社会実装していくのか。それは多くの研究開発型スタートアップが持つ課題といえるでしょう。

一人ひとりの腸内フローラを解析し、最適化された完全オーダーメイドのビフィズス菌サプリメントを提供する研究開発型スタートアップ「株式会社bacterico」は、自社の新しい技術の社会実装を加速させるために、「K-NICハンズオンプログラム」への参加を決めました。

代表取締役の菅沼名津季氏に、起業への強い想い、プログラムで得た「プロダクトアウトからマーケットインへの転換」、そして日本発の個別化医療の展望について、伺いました。

【プロフィール】

株式会社bacterico 代表取締役 菅沼名津季 氏

名古屋大学大学院で創薬科学を学び、食品メーカーでの腸内細菌研究を経て、株式会社bactericoを創業。

「明日の幸せを、腸から〜腸内細菌の可能性を引き出し、一人ひとりのなりたいを叶える〜」をミッションに、個別最適化された腸内フローラケアサービスを提供。慶應義塾大学薬学部の講師も務める。

「一人ひとりのなりたいを叶える」ヘルスケアソリューションの新たな挑戦

株式会社bactericoは、「明日の幸せを、腸から〜腸内細菌の可能性を引き出し、一人ひとりのなりたいを叶える」というミッションを掲げ、腸内フローラ解析を起点としたパーソナライズドなヘルスケアソリューションを展開しています。

現在は企業へのサービス提供の他、妊娠中の女性のための腸内フローラケアサービス『ママフローラ』や、体重管理を目的とした『ダイエットフローラ』といったプロダクトを提供しています。これらのサービスは、検査をし結果を届けて終わるのではなく、管理栄養士による解説付き面談や食事内容のフィードバックを通じて、利用者の「行動変容」を促すことを大切にしています。

こうした取り組みを続ける中で、私たちはある根本的な問いに向き合い続けてきました。どれほど評価された食品やサプリメントでも、人によって「合わない」ことがあります。100人中100人に効果があるわけではないのです。

私たちはそうした「合う・合わない」をできるだけ減らし、「その人に本当に合うものを届けたい」という思いから、昨年の大阪・関西万博を機に、自己由来のビフィズス菌から製造する「完全オーダーメイドのビフィズス菌サプリメント(製剤)」の展開を開始しました。

今回のハンズオンプログラムは、このテーマで参加しました。

遺伝子研究から予防医療、そして起業へ ~ 病気を「治す」よりも「ならない」ためにできること

起業のきっかけは、予防医学に関心を持った高校時代の職場体験での出来事にあります。訪問先の病院で、40代という若さで亡くなる患者さんの最期に立ち会いました。ご家族が泣き崩れる姿を見て衝撃を受けました。当時は病気を治して人々の健康を守りたいという思いから医師を目指していましたが、この経験を機に「そもそも病気にならないこと」こそが重要だと考えるようになりました。

「病気になる遺伝子をなくしたい」と思い大学では遺伝子研究を専攻しましたが、一卵性双生児でも生活習慣によって健康状態が異なることを知りました。そこから「食事こそが究極の予防薬ではないか」という考えに至り、食品メーカーに入社を決意。入社した江崎グリコで出会ったのが、「腸内細菌の研究」です。

『多くの人に安く良いものを届けること』は企業の使命の1つだと思います。同じ製品でも100人中70人に効果が出れば、それでいいという判断をせざるをえません。けれど私が目指していたのは「一人ひとりを健康にする」ということです。どうしても「100人全員に、本当に合うものを届けたい」という想いを捨てきれませんでした。

起業する選択肢など全くありませんでしたが、上司に相談した際に「本気でやりたいなら、自分でやるしかない」と背中を押され、独立を決意しました。
今振り返ると、あの時に決断をして、本当によかったと心から思っています。

ハンズオンプログラムに参加した経緯

2025年11月で起業から5年が経ちました。当社のメンバーの多くは研究者です。技術には強みがある一方、「どう事業化するのか」「どうスケールするのか」という経営面について課題を抱えていました。

特に「完全オーダーメイドのビフィズス菌サプリメント(製剤)」の事業化にあたっては、パーソナライズを維持しながらの大量生産技術の開発、PoC設計、資金調達など、課題は山積みでした。

そんな時、入居していたインキュベーション施設からK-NICのハンズオンプログラムをご紹介いただきました。技術を理解したうえでビジネス面を伴走支援していただける点に大きな魅力を感じ、応募を決めました。

プロダクトアウト思考からマーケットイン思考へ

約2カ月間、2名のメンターに伴走していただきました。
最大の学びは、「プロダクトアウト」から「マーケットイン」への視点の転換です。

研究者が事業計画書や申請書を書くと、どうしても技術説明が中心になりがちです。しかし「社会実装を目指すなら、市場性や事業化の道筋を示す必要がある」とアドバイスをいただきました。

この視点を取り入れたことで、資料は大きく変わりました。技術の見せ方や数字の使い方、自分では判断しづらかった実証結果の開示範囲まで具体的なアドバイスをいただき、事業の解像度がぐっと上がったと感じています。

また、投資家目線でのチェックポイントを教えていただけたことも大きな学びでした。
技術理解とマーケット理解の両方ができる方というのは、非常に限られています。その点で、K-NICのハンズオンプログラムではいずれの視点でもメンタリングが受けられることが魅力的でした。

私たちはプログラムに参加し、NEDOのNEP3000への申請資料を完成させました。実は以前にもNEP3000へ応募したことがあったのですが、なかなか採択されず苦戦していました。今回プログラムに参加することで、精度の高い申請書類を作ることができたと思っています。

申請書類の質を高められたことに加え、プログラムを通じて嬉しい場面がありました。採択審査会の際に、女性スーパーバイザーの武田さんをお見かけしたことです。ディープテック領域では、女性の審査員やスーパーバイザーに出会うことはほとんどなく、とても心強く感じました。

日本発「個別化医療の第三の市場」をつくりたい

今後の課題は、完全パーソナライズを維持しながら製造コストを下げることです。現在は手作業の工程が残っているため、需要の増加に対して生産スピードが追いつかない状況です。自動化による量産体制を構築し、より多くの方にお届けできる体制を整えています。

その先に目指しているのが、個別化医療の新しい市場づくりです。

近年、薬の効果が腸内細菌叢によって大きく左右されることが分かってきています。例えばがんの治療で用いられる免疫チェックポイント阻害剤は、よく効く人と効かない人がいますが、その差には腸内細菌が関与している可能性があります。

私たちは、薬を投与する前に腸内環境を整えることで薬の効果を高める「コンディショニングドラッグ」のような製剤開発を目指しています。将来的には、抗がん剤などの治療と併用される個別化製剤として医療現場に届けたいと考えています。

ゲノム編集や細胞治療に続く「個別化医療の第三のモダリティ」を日本発で世界へ広げることが、私たちの目標です。

最高の翻訳者と共に世界へ ~ 応募を検討している方へ

ディープテックの起業家は、自分たちの技術への強い思いを持っていると思います。一方で、その価値をビジネスの言葉で社会に伝えることに苦戦するケースも少なくないのではないでしょうか。

K-NIC Startup Hands on Programは、技術を社会に届けるための最高の「翻訳者」に出会える場所だと感じています。単なるアドバイザーではなく、同じ目線に立って事業の成長を考えてくれる戦友のような存在です。

本気で「技術で社会を変えたい」と思っている方には、ぜひ挑戦してほしいです。最高の翻訳者との出会いが、自分たちの技術を世界へ届けるための大きな一歩になるはずです。