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起業家インタビュー

ハードウェアは売れたら終わりか?現場への付加価値を追求するスタートアップの起業ストーリー

K-NIC会員のハードウェアスタートアップ・株式会社LexxPlussにインタビュー!

ハードウェアは売れたら終わりか?現場への付加価値を追求するスタートアップの起業ストーリー

川崎市にある起業家支援拠点&コワーキングスペース・K-NICを利用しながら活躍されている起業家に、
起業までの軌跡やK-NICの便利な活用方法などをインタビューするシリーズ。

今回は2020年3月に起業し、1か月弱でHAX Tokyoやサムライインキュベートのアクセラレータープログラムにも採択された注目の自動搬送ロボットスタートアップ、株式会社LexxPlussの阿蘓将也さんにインタビュー!

英国のマンチェスター大学・大学院で機械工学デザインを学び、世界的自動車サプライヤー・ボッシュで自動運転技術を使用したプロジェクトに携わってきた阿蘓さん。

モビリティー開発を行う有志団体「Deep4Drive」の代表など、幅広い立場で活動している阿蘓さんはなぜ起業したのか。このままでは無職⁉という状況から現在に至るまで、短期間で進められた起業の裏側をうかがいました。

起業家プロフィール

株式会社LexxPluss
URL:https://www.lexxpluss.com/

阿蘓 将也氏

阿蘓 将也氏/代表取締役
英国マンチェスター大学・大学院を修了後、ボッシュ株式会社にて自動運転技術開発に従事。日本とドイツにある自動運転の開発拠点を回り、自動バレー駐車システムの日本開発チーム技術リーダーとしてレベル4の自動運転をリリース。2018年にはモビリティー開発における日本最大の有志団体「Deep4Drive」を立ち上げ、自動運転レースやJR東日本と共同プロジェクトにも参加している。2020年3月に株式会社LexxPlussを起業した。

単にロボットを売るのではなく、現場の潜在的な問題を解決する付加価値とともに提供したい

――まずは、阿蘓さんの事業について教えてください。
カスタマイズ性をデザインした、オープンソースの自動搬送ロボット開発です。
今、物流倉庫や製薬工場などの現場には、人経費の高騰や人手不足、長時間労働などの問題があり、こうした現場に、AGV型やAMR型(※1)と呼ばれる自動搬送ロボットが導入されつつあります。しかし、各現場の経路や用途によって必要な機能に違いがあり、ロボットの需要と供給にはばらつきがあります。ある工程では高機能型のA社ロボットを使用して、別工程では低機能型のB社ロボットを使わなくてはいけない。それに合わせて倉庫管理システムを協調させようとすると、とても手間がかかります。
僕らのロボットは、1つのシステムで高機能にも低機能にもカスタマイズできます。それをオープンソースにし、ロボットだけを売るのではなく「そのシステムを使ってどういうオペレーションをするのか」という付加価値を提供しています。

LexxPlussのプロトタイプイメージ

LexxPlussのプロトタイプイメージ

(※1)AGV型(automated guided vehicle)は誘導線上を走行し、決められた場所へ荷物を搬送する自動搬送車。一方、AMR型(autonomous mobile robot)は誘導体不要で、自動運転と同じように高度なセンサーを取り付けて指示した場所に自分で経路を考えて安全に走行する。自律走行搬送車とも呼ばれる。

――オープンソースとは大胆ですね。自動運転技術はとても高価なイメージなのですが…。
自動運転は最先端技術が集約されていると思われる方も多いと思いますが、僕の中では成熟期に入ったと確信しています。自動走行するためのセンサーもかなり安く提供できるようになっていますし、つなぎ合わせてオープンソースを使えば、どんな人でも機能的には自動走行ができるものを作れるようになっています。つまり、自動運転の技術はもう強みにはなりえません。そこで、僕らは技術をオープンにして、システムをみんなの使いやすいように提供する。ロボットをどう使うかを現場の視点でとらえて、付加価値を生んでいくべきだと考えました。
単純にロボットを売って終わりというビジネスではなく、お客さんと一緒に現場の問題を解決しながら長期的なビジネスをしていく。そういったハードウェア企業を目指しています。

――事業を思いついたきっかけは何だったのでしょう?
元のアイデアは「LexxRoo」というサービスで、主婦や子育て世代をターゲットにしたマンション内の荷物搬送ロボットでした。妊娠されている主婦の方が買い物の荷物を重そうに運んでいるのを見て、これをロボットがアシストしてくれたら快適な体験になるのではないかと。実は今年の2月末までその計画で進めていたんです…。

――起業は3月でしたよね。そんな短期間に…これまでの経緯を詳しく教えてください!

起業までの道のり

起業までの道のり

数年前から漠然と起業は頭にあり、当時は自動運転とは関係ないアプリの開発をしていました。その間に前職のボッシュでは、自動バレー駐車の開発などに携わり、自動運転の技術や物流業界における自動化のニーズを肌で感じていました。
マンション内の荷物輸送サービスを思いついてからは、友人などを通じて15組ほどの主婦や子育て世帯にアンケートを行い、必要であれば直接お会いしてペインポイントを探っていました。
結論としては「欲しいけど、毎月それに数千円払うレベルではない」という結果に。需要はあるけれど、供給の仕方を間違えるとビジネスとして絶対に成り立たないことを実感しました。この実感がこの時期に得たものとして一番大きかったと思います。

――初めに思いついたアイデアが潰れるというのは、ショックですね。
ダメだという確信に変わった日は、さすがにドーンと落ち込みましたね。でも、ボッシュに退職の意向は伝えていたので、後戻りはできない。無職になるかの瀬戸際でプレッシャーもありましたが、すぐに気持ちを切り替えて、翌週には新たなビジネスアイデアと顧客のリサーチを始めていました。

カスタマイズ性を軸に、需要が高い物流事業のモデルへ大転換

――どのような経緯で物流事業にターゲットを変更したのでしょうか?
事業には、僕が代表を務める有志団体「Deep4Drive」の中で興味を持ってくれた仲間も創業メンバーとして加わってくれています。彼らともリサーチ結果をシェアして、サービスの方向性を考え直しました。
マンションに限らずとも、自動化のニーズは大小あります。もしロボットが0円で提供できたなら、みんなが使うようになりますよね。なので、供給の仕方を調整して、toB向けのビジネスモデルを再設計することにしたのです。
そこでキーポイントになったのが「カスタマイズ性」。低機能で安価なものから、24時間365日動く高機能なものまで、レゴブロックのように必要なものを組み立てて作れるロボットであれば、「あると便利」というレベルを脱却し、「なくてはならない」レベルのものを提供できるのではないかと思いました。カスタマイズ性をどうアプローチしていくのがベストなのかを考えた結果、一度振り切って自動化のニーズが非常に高い事業を攻めていけば、ビジネスモデルとして成り立つのではないかと。そこで、物流の現場に存在する問題を解決できるカスタマイズ性と需要の高い物流というターゲットを掛け合わせたモデルに転換しました。

――大転換ですね。3月から顧客にリサーチをかけ直したということですが、新型コロナウイルスの影響はありましたか?
とにかくすぐに動き出したので、問い合わせ後に直接お会いする機会をいただけた企業もありました。採択されたアクセラレータープログラムの関係者からの紹介などもあって、現在では14社ほどやり取りをさせていただいており、ロボット導入に向け一歩ずつ進んでいる実感はあります。

新しいこと・面白いことへの挑戦が今につながる

――大学・大学院では機械工学を専攻されていますが、小さい頃からロボットが好きだったのですか?
いえ、全く。ロボットオタクではないし、高校生の頃は部活と恋愛で頭がいっぱいでした(笑)。地元の大学を受けるにあたり、宇宙・航空系があって何となく面白そうだと感じた機械工学を目指したのが入口です。しかし、大学時代の授業はつまらなくて寝てばかり。そんな時に、友人が「スペースバルーンを飛ばそう!」と声をかけてくれました。

阿蘓さんたちが立ち上げた名古屋大学の宇宙開発チーム

阿蘓さんたちが立ち上げた名古屋大学の宇宙開発チーム

メンバーは友人と僕を合わせて4人。1人1万円を出し合って材料をそろえ、日本初のスペースバルーンを成功させました。周りに面白いねと言ってもらい、それがきっかけで大学に宇宙開発チームも作りました。

――しかし、宇宙開発の道には進まなかったのですね。なぜ英国の大学院に進学したのでしょうか?
工学デザインを学ぶためです。大学時代は開発の楽しさを感じつつも、日本のモノづくりに疑問を持っていました。日本のモノづくりはすごいと言われますが、個人的にかっこいいと思えるものがなかったのです。そんな時、これまでと価値観の違う英国・ダイソンの掃除機に出会いました。
ダイソンにはデザインエンジニアという職種があります。デザインとエンジニアリングを両方できる人がプロダクト開発をしていて、「世の中にある問題をどのように解決しよう」という視点で製品を作っています。デザイナーとエンジニアが別の職種として扱われる日本では、デザイン思考のエンジニアとしての勉強は難しい。そこで、マンチェスターの機械工学デザイン(メカニカル・エンジニアリング・デザイン)という学科に進みました。
大学院での学びも自動運転技術とは直接関係のない分野ですが、問題をどう解決するかというプロセスを学べたことは、今につながっていると思います。
例えば、先行してリリースしている「LexxSupport」は、ロボットではなく分析サービスを提供していて、どういう運営リスクがあるのかなど、悩みを解決するというところから始めています。
僕らが見ているのは、離職率の改善などではありません。現場にある潜在的な問題を現場の人と一緒に発見して、その問題を解決するにはどうしたらいいかというミクロの視点で考えています。デザイン思考もそうなんです。統計的な問題より、本質的なターゲットが誰で、どういったところに課題があるかというのを突き詰めるのがデザイン思考。今のビジネスに非常に影響を与えた学びです。

先行リリースされた「Lexx Support」

先行リリースされた「Lexx Support」

K-NICとのつながり

――K-NICを知ったきっかけは何でしたか?
Twitterです。NEDOとつながりがある施設で、しかもイベントも相談も無料と聞いて(笑)。とても魅力に感じました。
また、事業を進めるうえで、利害関係がない人に、しがらみなくオープンに話せたのは大きかったです。K-NICにはスーパーバイザーがいて、投資家との進捗状況などにも第三者的なアドバイスをいただけます。スーパーバイザーの方々はK-NIC以外でも活躍していて、外部機関の情報も教えてもらえます。こうしたネットワークを持てたことも利用していて良かったと感じることの1つです。

――K-NICのイベント等に参加されて、良い出会いはありましたか?
VCのイメージががらりと変わった、衝撃の出会いがありましたね。VCの方々は、利益を上げないといけませんから、計算から入ってくるような人もいます。しかし、登壇されていたVCの方は、本当に起業家と同じ目線で考えていて、講演でその熱をとても感じました。こういった人でないと、最終的に事業の成功につながらないのではないかと。そういった良い企業、良い投資家に出会えたことは大きな経験だったと思います。

――今後K-NICに期待することはありますか?
K-NICのコワーキングスペースで開発できたりとか、サービスを試せたりしてハードウェア開発をしている人たちとの交流が生まれたらいいなと思います。また、川崎にはいろんな企業があるので、そういったところとつながって、現場のニーズを理解することはメリットになると思います。企業とスタートアップをネットワーキングするような機会があれば、僕らの次のステップとしてどんどん関わっていきたいですね。

売って終わりではない プロブレムファーストな視点で現場に寄り添うサービスを

――最後に、今後のビジョンについて教えてください。
社名の「LexxPluss」には、快適な(luxury)、経験(experience)をプラスするという意味を込めています。ロボット企業はロボティクスとか、テクノロジーという名前になりがちですが、僕らはロボットの技術がすごいから買ってほしいんじゃない。物流や工場に、自分たちが開発したロボットを提供して、彼らの事業を継続的に効率良くしていくところに付加価値を提供したいと思っています。人手不足に悩みながら、それでも事業を継続しなくてはならない方々にとって最適な形のソリューションを提供していくのが初めの目標です。
中期的には海外の市場も目標としていますが、もっと長い目で見れば、自動搬送ロボット事業に限らず、いろいろなことに取り組みたい。現場がロボットで解決できないことで困っているのなら、最終的にはアプリを作るかもしれない。「誰の何を解決したいか」という視点で常に物事を見ようと努力しています。ロボットで自動化することを目的とせず、現場の人たちにとって楽しい職場環境か、やりがいを持って働けているかを考えたい。
買ってもらって終わりというビジネスではなく、使ってもらって初めて意味があるものだと思っているので、ハードウェアとサービスの両輪で付加価値を提供できる会社を実現していきたいです。