MAGAZINE

イベントレポート

海外でスタートアップするならエコシステムが成功の鍵 オンラインで加速する海外進出の可能性

5/11(月)に開催したイベント「世界50か国のエコシステムリサーチャーが語る、海外進出したいスタートアップのこれから」のレポートをお届け!

海外でスタートアップするならエコシステムが成功の鍵 オンラインで加速する海外進出の可能性

2020年5月11日、世界50か国を訪問し、スタートアップエコシステムをリサーチしている大森貴之氏のオンラインセミナーが開催されました。
海外進出を目指す起業家にとって、海外のスタートアップ事情やマーケットの情報は見えづらく、新型コロナウイルスの影響もあり、参入の判断が難しい状況が続いています。その突破口となるのが、スタートアップエコシステムです。海外で成功するには、スタートアップの苗床ともいえるエコシステムを理解し、積極的に加わっていくことが重要だといいます。
今回はシリコンバレーで開催される世界最高峰のハッカソン「F8 Hackathon」に日本人で唯一招かれ、各国の最新情報をリサーチしている大森氏に、海外でスタートアップをするために重要なエコシステムと今後の動向についてお話しいただきました。

ゲスト

大森 貴之氏/RouteX Inc. Founder & CEO
スタートアップにおける情報の非対称性のない世界を目指して、世界各国のスタートアップエコシステムをリサーチするエコシステムリサーチャー。シリコンバレー、シンガポール、メキシコ、ロシア、バンガロールなど各地で開催されるスタートアップイベントやハッカソンに参加、日本側の運営を務める。自社でもスタートアップに関するコミュニティを運営し、独自のスタートアップエコシステム構築のため活動している。
https://routexstartups.com/
https://www.k-nic.jp/supportor/1363/

モデレーター

丸山 大輔/K-NIC コミュニケーター
https://www.k-nic.jp/supportor/111/

海外進出には必須知識 「スタートアップエコシステム」とは?

大森さん:「スタートアップエコシステム(以下、エコシステム)」は、スタートアップの成長過程を地球の生態系に見立てて表した用語です。
最初の起業家の失敗から学んで、次の起業家が別の方法を試し、さらに次の世代が新たな方法でチャレンジしていくというような、生まれては消えるサイクルが活発に行われていることをいいます。
発祥といわれるシリコンバレーでは、それをVCや大企業がサポートし、起業家を成長させるエコシステムが発達しています。日本ではあまり認知されていませんが、シリコンバレーでは40年前から始まっており、海外ではスタートアップの成長にエコシステムは欠かせません。

丸山:日本のエコシステムは海外に比べて発展していない印象ですが、海外からはどのように見られているのでしょうか?

大森さん:日本はVCやCVCなど資金の母数は多いですが、スタートアップが少ないといわれています。お金余りの状態に加えて起業家の数が少ないので、システムのバランスが保たれず発展していません。海外から見ると残念な状況で、FacebookやGoogleなどはアジア地域の本社を日本ではなくシンガポールに置くようになってきています。英語が話せないという言語的な壁もあり、海外企業が日本のマーケットに参入するのは難しいと受け止められています。

丸山:そのような状況では早い段階で海外のマーケットに出ていきたいと思う日本のスタートアップもありそうですね。しかし、いきなり海外進出は難しいと感じます。海外で成功するには、やはりエコシステムに加わることが重要なポイントですか?

日本のスタートアップが海外のエコシステムに入る方法

大森さん:そうですね。様々なアプローチ方法がありますが、僕が最初に行ったのはミートアップに参加し続けることです。シリコンバレーだったり、イスラエルだったり、世界のどこでもやりました。現地のコワーキングスペースを調べて、毎日いくつものイベントを掛け持ちして出てみる。すると、そこで出会った方がSNSで人を紹介してくれて、次へ次へと進んでいきます。ゼロベースの方は、一週間でもいいので徹底的にミートアップへ参加してみるのも一つの手かなと思います。
海外ではコワーキングを中心にエコシステムが形成されているので、信用という意味で一度顔を合わせるということは必要ですが、今の状況化ではできません。しかし、この状況だからこそオンラインが当たり前になってきていますし、相手はオンラインで機会を待っています。僕はむしろボーナスタイムなのではないかと思っています。今のうちにセールスをかけて、落ち着いたら現地へ行くというのがスムーズです。

丸山:大森さんがスタートアップの支援者として、海外進出したいスタートアップに行った支援事例について教えてください。

大森さん:これまでのリサーチ経験を活かして、スケールするチャンスがあるマーケットへの参入支援をしたことがあります。
海外進出というと、アメリカやヨーロッパを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、皆さんのプロダクトやニーズは、そのマーケットではすでにやりつくされてしまって、競合だらけということがあります。一方で、モスクワやイスラエル、中東などはまだまだ手付かずで、スケールするチャンスがあります。その可能性を見据えたうえで、参入前に事前知識をインプットしておくのは重要なポイントです。
例えば漫画配信アプリを開発されている方を支援した際には、スケールするマーケットをいくつも検討した結果、ロシアにニーズがあることがわかりました。ロシアにいる日本の漫画ファンは、UI・UXが良ければ課金してでも使用したいと思っていたので、ロシアへの参入を目指して現地調査をしました。

丸山:ロシアなど身近に感じない国はリスクに思いますが、逆にチャンスなのですね。

大森さん:もちろん、身近に感じる国のマーケットに参入して戦うこともできると思いますが、一方で「勝ちやすいマーケットがほかにあるかもしれない」という可能性を捨ててしまうことになります。シンガポールやインドネシアでの伸び率が50%だとして、実はウクライナなら80%、イスラエルなら100%かもしれない可能性を捨てるのはリスクです。それは事前にリサーチしていればわかります。大きな地域区切りでもいいので、リサーチしてから参入を検討するのが一番良いと思います。
そういった国々はご自身で調べることも難しいと思いますし、一般にはマーケットの存在自体を認知できていません。ここに情報の非対称性があって、僕は大きな問題だと感じています。

丸山:大森さんが活動の中で感じている課題ですね。スタートアップが海外進出する際に注意すべき点は何でしょうか。

スタートアップが海外進出する際の注意点

大森さん:国ごとのルールやカルチャーの違いを理解しておくことだと思います。
当たり前かもしれませんが、日本のルールが通じないということは多々あります。通じないんだというマインドがあったとしても、お互いのベースにある基準が違いすぎて会話にならないこともあります。例えば、日本では少しのエラーでも計画が進められないのに対して、その地域は3割のエラーであれば前に進んでしまうとか。ミーティングで進捗を共有するだけなのか、意思決定がすべてそこで行われるのか。国ごとに独特のカルチャーがあるなかで、その理解がないとお互いに良い印象を持てません。この点にはよく注意しないと、現地で何もできなくなってしまうと思います。
また、現地との温度差があるということへの理解も必要です。
例えば、その国の競合数やビジネスのレベル、マーケットの伸び率などは「Crunchbase」という世界最大級のスタートアップデータベースを使えば誰でも見ることができます。しかし、データベースで外観はわかりますが、現地の温度感までは見えません。僕自身も、調べてから行ってみたら全然違うということが何度もありました。日本人のスタートアップが少ない地域で、現地の人とどう付き合っていくのか、日本人コミュニティはあるか、法律はどうなのかなど、現地に行かないと見えないこともあります。
そういった不明点は相談するなどして、皆さんが少しでも納得できる状態で参入された方が良いと思います。

新型コロナによる影響は? 加速するオンライン上のピッチ、セールス

丸山:新型コロナウイルスの影響によって、海外のスタートアップエコシステムはどのような状況になっているのでしょうか?

大森さん:オンラインにアクティブではなかった人々が、一斉にアクティブになっていると感じています。大きな違いは、今までアプローチできなかった層に対してもオンライン上でアプローチできるようになったことです。事前調査に関しても、現地に行かないと取得できなかった情報が、オンラインミーティングのヒアリングで生の情報を得やすくなりました。
この「オンランでできることはオンラインで」という流れは加速していくと感じています。なので、気になったことがあればオンラインで声をかけてみたり、自社のプロダクトをピッチしてみたり、積極的に活用してほしいです。ピッチイベントも毎日やっても足りないくらいの数がオンライン上にあります。考えているアイデアをオンラインでピッチして、フィードバックをもらうというように、行かずとも現地のフィードバックをもらえる機会が今後は格段に増えていくと思います。

丸山:オンラインなら現地のフィードバックを瞬時にもらいながら、ブラッシュアップしていけるのですね。オンラインピッチで工夫すべき点はどのようなところでしょう。

大森さん:ピッチで伝えるべき点はある程度体系化されていますが、終わった後に連絡をしてもらえる工夫をした方が良いです。説明しきることよりも、持ち時間できっかけを作ってミーティングにつなげるという意識でピッチを活用すると、多くの人に伝わりやすくなると思います。
また、オーディエンスの反応を見てネタを変えるようなテクニックはできなくなるので、事前にデモやプロダクトのURLを共有しておくのも良いです。今までよりも実際のプロダクトや説明を見てもらえる時間は増えていると思うので、読んでもらえる資料としてのコンテンツづくりが、ピッチの時間よりも重要になってくると思います。

丸山:収束が見えない状況ですが、今後はやはりオンラインが主流になりますか?

大森さん:どちらかというと、オプションの一つになると思いますね。僕は選択肢の一つとして、オフラインと同じだけの重みがあると感じています。
今までオンラインのイベントや交流会は一般的でなく、リアルイベントの劣化版という印象を持っていた方も多いと思います。しかし、コロナをきっかけに「ここまでオンラインでできるじゃないか」と、ほぼすべての人が気づきました。一方でイベント後のミートアップなど、フランクに話して関係をつなげる機会が少なくなるのは課題です。今後はそれをどうやってオンラインで再現していくかというところに、世界中の企業が注力していくと思います。

丸山:大森さんはこの状況下で、どの国のエコシステムに注目していますか?

大森さん:今注目しているのはアフリカです。アフリカは医療体制が整っていない状況なので、新型コロナの影響を強く受けてしまう地域の一つだと思います。しかし、ドローンでワクチンを飛ばすスタートアップがいたり、エコシステムが独特の発展を遂げている印象です。
これには、エコシステムの発展に地政学的理由が影響していると思います。例えば、イスラエルは周囲との紛争のためにセキュリティに特化したスタートアップが盛んになりました。衝撃的な問題を抱えたときに、一気に成長するというのはこれまでのエコシステムの歴史から見られることです。なので、アフリカの医療系スタートアップは今後伸びるのではないかと期待しています。

オンラインの流れのある今が好機 広い視野でマーケットを選んでチャレンジを

大森さん:大学院の同期たちも起業するといっていましたが、結局起業したのは僕だけでした。日本のエコシステムが成長しない理由の一つは、やはり起業にリスクを感じてしまう環境です。海外では起業しない方がリスクとさえいわれます。
そして今、オンラインではFacebookやMicrosoftなどが連携して新型コロナと戦うハッカソンなど、世界各地のエコシステムに参加できる様々な取り組みが行われています。このような機会だからこそ「英語だから」と立ち止まるのではなく、果敢に挑戦してチャンスを広げてほしいです。
事前リサーチやピッチのアドバイスなど、僕がお手伝いできることはたくさんありますので、海外進出を目指す方は、お気軽にご相談ください。