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起業家インタビュー

研究開発型ベンチャーが作り出す未来 ミクロのつながりで生まれた顕微観察技術が世界を変える

K-NIC会員の研究開発型ベンチャー・株式会社IDDKにインタビュー!

研究開発型ベンチャーが作り出す未来 ミクロのつながりで生まれた顕微観察技術が世界を変える

川崎市にある起業家支援拠点&コワーキングスペース・K-NICを利用しながら活躍されている起業家に、起業までの軌跡やK-NICの便利な活用方法などをインタビューするシリーズ。

今回は、東芝をはじめとした大手企業3社からの資本調達やBtoC製品開発のクラウドファンディングにも成功している顕微観察のIotベンチャー、株式会社IDDKの上野宗一郎さんにインタビュー!

約400年も変わらなかった顕微観察の歴史を動かしたという新技術がどのようにして生まれ、製品化されていったのか。一研究者が起業し、現在に至るまでのエピソードをうかがいました。

起業家プロフィール

株式会社IDDK
URL: https://iddk.co.jp/

上野 宗一郎氏

上野 宗一郎氏/代表取締役
人工衛星で使われるハイパースペクトルカメラ(光学技術)の研究で大学発ベンチャーを立ち上げた後、株式会社東芝に入社。個人で研究を続ける傍ら、東芝で半導体イメージセンサーの開発者として従事する中で、顕微観察技術(MID:マイクロイメージングデバイス)を発明。スピンアウトベンチャーとして株式会社IDDKを設立し、顕微観察の新しい扉を開いた。

人とのつながりが新しい技術とビジネスを生む

――上野さんの事業について教えてください。
いつでも、どこでも、だれでも使える顕微観察装置(MID)の開発をしています。
顕微観察は医療や生物研究、材料工学など様々な産業で活用されていますが、従来の顕微鏡はレンズを用いるために量産が難しく、非常に高価でした。半導体と光学の技術を応用した当社の顕微観察装置は、レンズを通さずに、半導体チップデバイスに検体を載せるだけで高価な顕微鏡と同じように観察できます。パソコンのモニターでだれでも見ることができ、ポケットサイズで水の中や宇宙にも持っていける装置です。顕微観察装置を中心とした装置ビジネスとモジュールビジネスの2軸で事業を展開しています。

顕微観察装置(MID)の技術

――ワクワクする技術ですね! 起業のきっかけは何でしょうか。
起業のきっかけは、この技術が生まれたからです。
発明したのは東芝に勤めていた頃でした。もともとイメージセンサーの設計開発を行っていて、当時はセンサー面に付着したゴミを解析する不良解析をしていました。どんなゴミがあるのかを顕微鏡で観察していたんです。ある時、次世代の微細化製品の不良解析をしていたら、顕微鏡で見ているゴミの画像とイメージセンサーから出力されている画像データの形状がほぼ同じであることに気づきました。その時は単なる不良としか思っていなかったのですが、社内の別部署から水中の細菌を見たいという相談があり、細菌の大きさを聞いたところ、何と、見ていたゴミと同じサイズで!
細菌が見えるなら、細胞も見える。それならプランクトンも見えるのではないかと試していたら、顕微鏡のように見ることができると判明しました。そこから社内で行われている新規事業アイデア募集に応募し、1年ほど研究を続けた結果として生まれた技術でした。
偶然生まれた技術ですが、改めて考えると顕微観察は色々な分野に使われていて、それをワンデバイスで見える技術には広い応用用途があると思いました。例えば、医療の行き届かない地域では、先進国の研究機関に送って初めて危険なウイルスだとわかるケースもあり、現場にこの技術があればもっと早く見つけることができるのではないかと気づいたのです。デバイスをどこにでも持っていけて、だれでも使うことができれば、世の中に貢献できる技術になる可能性がある。そう感じて事業化を決意しました。社内で製品化する道も模索はしたのですが、世に出ていない技術だったので市場規模を示すことができず、大企業の中で進めるのは難しいということで、スピンアウトのかたちをとりました。

検体を載せるだけで簡単に顕微な世界を覗ける

――別の部署からの依頼がまさか…!ですね。大企業での研究はそのような連携が多いのですか?
連携といいますか、当時からあまり関わりのない事業部に顔を出したり、東芝という看板を使って色々な分野の人に話を聞きに行ったりしていたんです。そういう活動をしていたら、社内から相談事がたくさん来るようになって、気づけば「よろず相談処」になっていました(笑)。水の細菌の話もそうですが、ついには関連会社からも相談が来るようになり、そうして様々な案件に関わっていく中でネットワークが広がっていきました。また、新規事業アイデア募集は全社の上役の方が見てくれる発表会のようなものなので、そこで東芝全社のネットワークの恩恵を受けられたことも大きかったです。そうしたつながりがベースにあって、人づてに紹介に紹介を重ねてもらって今があります。

資金の壁はパートナーシップで突破?

資金の壁はパートナーシップで突破

――研究職から起業というのは大変なことだと思います。上野さんはどのように起業までの歩みを進めていったのでしょうか。
起業に向けて、はじめは行政が主催する起業塾に行って経営や資金調達とはどういうものなのかを勉強しました。でも、起業という点では大学発ベンチャーでの経験の方が大きかったと思います。当時は経営者ではなく技術担当者でしたが、研究していたものを製品化し、量産化したものを技術営業で売り歩くという一連のプロセスを一通り経験しました。
経営と資金調達面は今もまだ模索中ではありますが、ものづくりに対する不安はあまりなかったですね。

――初めての起業よりも不安は少なかったのかもしれませんね。しかし、研究開発では資金調達が大きな壁になりますよね。
そうですね。2017年の6月に起業しましたが、4か月は個人事業で続けていた研究の収益で何とか食いつないだ感じです。その後、創業融資制度を受け、顕微観察装置のコンセプトデモ機「GUAIS1st」の拡販費として使用しました。

コンセプトデモ機「GUAIS1st」

――え!融資を開発費ではなく拡販費に…?開発費なしでどのように作り上げたのですか?
研究者同士のつながりで、協力していただける会社と手弁当で作りました。実は製品名の「GUAIS」も協力企業の頭文字を並び替えた名前です(笑)。
もちろん開発費を抑えたいという思いはありましたが、会社として色々なパートナーとものづくりをしていきたいという考えが当時からありました。自分ひとりでこういった装置を作るのには限界があります。いろんな人たちを巻き込んで作り上げるという時に、パートナーシップをベースとしたものづくりをしていきたいと考えていました。そこでこれまでの様々なネットワークのつながりで協力してくれる会社を探し、協力会社の技術を持ち寄ることで開発費を圧縮し、設計費・人経費をかけることなくコンセプトデモ機を完成までこぎつけました。
今では信頼のおけるアウトソースのネットワークもできました。案件の内容を細かく指示しなくても、案件を持っていくと「面白い!」と取り組んでいただけて、そのチームに依頼することで製品がガチっとできあがってくる。そういった意味で人のつながりには恵まれているというか、ありがたいですね。

――ここでも上野さんのネットワークが活きてくるわけですね。コンセプトデモ機以降も助成金などを受けていると思いますが、資金調達面で気をつけるべきポイントはありますか?
「何のためにお金を入れるのか」を明確にした方がいいと思います。
助成金は当たればラッキーという認識です。こう言うとおこがましいかもしれませんが、助成金ありきで事業を行うのは良くないと思うんです。それがないと成り立たない仕組みにするのは、あまりおすすめしないですね。
また、資金調達の仕方もサービスによって向き不向きがあると感じています。例えばハードウェア企業の場合、売り先が決まっていない、営業が不得意な状態で資金調達を融資ベースにすると、営業しなくてはいけない状態になってしまう。最初にスポンサーになってくれる会社から少額でもいいから資金を調達して、営業面のサポートをしてもらう体制づくりをするとか、調達の時点で考えておくといいと思います。当社の場合、はじめの融資を拡販費に使用したのは、返済しなくてはいけないからです。製品を売らなくてはビジネスになりませんし、融資も返せませんから。ソフト関連企業なら、受託ルートを開拓した後でソフト開発にお金を使うなら融資でもいいかもしれません。自分たちのサービスや技術などに合わせて、お金の集め方を考えた方がいいと思います。

――新しい資金調達方法として、上野さんはクラウドファンディングもやっていますよね。
お金があればやってみたい事業があって、BtoC事業もその一つでした。顧客に微生物のデモを見せると「キモカワイイ」なんて言われることがあるんですよ。そこでコンテンツになり得るのではないかと思いつきました。ただ、BtoB事業をメインでやっている中で、たくさんのお金をかけられないし、一般の人がこの技術を本当に面白いと思ってくれるのか疑問もありました。そんな時にたまたまイベントで知り合った方からクラウドファンディングを教えていただいて、お金が集まるなら…と思い挑戦してみました。ありがたいことに無事お金も集まったので、今年の10月にはデモ機を作り、購入型クラウドファンディングを行う予定です。ミクロな世界のコンテンツが受け入れられるか試してみたいと思っています。

BtoC事業の構想

K-NICとのつながり

――上野さんはどういったところにスタートアップ支援施設を利用するメリットを感じますか?
自分が見えてないポイントを指摘してもらえることです。ものづくりについては理解がありましたが、経営や資金調達は知らないことも多くありました。それらのポイントを押さえていくことで、経営者として一通り見渡せるようになったと思います。

2019年7月にK-NICで開催したイベントにてビジネスピッチをする上野氏

2019年7月にK-NICで開催したイベントにてビジネスピッチをする上野氏

――今後K-NICに期待することはありますか?
スタートアップ同士が仲間としてつながれる場をK-NICの中に作られるといいなと思います。お互いに紹介できるアセットはいっぱいありますし、紹介できる人脈もあると思います。そういったチャンスがあるだけでも、スタートアップはすごく助かる。「ここなら紹介してあげられるよ」というのをみんなができれば、みんなのネットワークを使えるようになって、スタートアップとして動きやすくなると思います。最近は特にオンラインでの活動で「どういう場所で出会ったか」が重要になってきていると感じているので、K-NICという安心できる場所でつながりを持てるといいですね。

人とつながり 未知の環境を切り拓く

――最後に、今後のビジョンについて教えてください。
事業化するにあたって、理化学研究所の辻孝先生との出会いは忘れられません。辻先生に「凡そ400年変わらなかった顕微観察の原理を変える技術」と強く背中を押していただいたことが、今もモチベーションにつながっています。ほかにも色々な方たちとのつながりや協力で、コンセプトデモ機の開発や資金調達ができました。人とつながること自体が新しいビジネスのはじまりで、そこから新しい技術が生まれていくという姿は今後より広がりをみせていくと思います。
この技術が最終段階まで開発された世界では、医療をより多くの人に届けられるようになっていると考えています。まずはその下地を作っていきたいです。そして海の中や宇宙など、新たな環境に顕微観察技術を用いたい。微生物の世界は全体の数パーセントくらいしか解明できていないと言われています。今は研究者のサンプリングしかないですが、子どもたちがどこへでも持ち歩いて、自由に使ったら「新種発見!」と未知の発見を大量にするかもしれないですよね。様々な研究開発において縁の下の力持ちである顕微観察をより身近なものとし、いつでも、どこでも、だれでも未知の分野を解明できる世界を当社の技術で切り拓いていきたいです。