MAGAZINE

イベントレポート

競争力のあるビジネスプランの作り方 成功しているベンチャーの共通点とは?

8/24(月)に開催したイベント「ビジネス創出のための価値提案の描き方 違いを生むためのビジネスプランの秘訣!」のレポートをお届け!

競争力のあるビジネスプランの作り方 成功しているベンチャーの共通点とは?

2020年8月24日、慶應義塾大学や早稲田大学で教鞭をとり、学生や卒業生の起業支援を行っている宮地惠美氏のオンラインセミナーが開催されました。
起業を考えた際、最初の壁となるのがビジネスプランの作成です。アイデアを独自性のあるビジネスプランにする過程で、悩まれる方も多いのではないでしょうか。競争力のあるビジネスプランを作るには、顧客に提案する価値に気づくことが重要だといいます。
今回はビジネスプランの作成によく使われるフレームワーク「ビジネスモデルキャンパス」を活用し、成長しているベンチャーの共通点や具体的なビジネスプラン例について宮地氏にお話しいただきました。

ゲスト

宮地 惠美氏/慶應義塾大学政策メディア研究科特任教授、早稲田大学ビジネススクール非常勤講師
システムエンジニアとしてキャリアをスタートし、2007年に慶應義塾大学同窓会メンター三田会のメンバーを株主とする(株)MMインキュベーションパート―ナーズ代表取締役に就任。システムエンジニアの経験と大学教員の経験を生かし、学生や卒業間もない生徒たちの幅広い起業相談を受けてきた。アントレプレナーの想いを実現するために、今、何をすべきか、何をすべきでないかを共に考えることを大切にしている。
https://www.k-nic.jp/supportor/686/

モデレーター

丸山 大輔/K-NIC コミュニケーター
https://www.k-nic.jp/supportor/111/

成長しているベンチャーの共通点とは?

宮地さん:存続しているベンチャーの共通点は「顧客に提案する価値に気づける」ことです。起業相談を10年以上受けていますが、決定的な成功の秘訣はないと感じています。しかし、分析してみるとどのようなビジネスにおいても、顧客に提供する価値に気づいてその価値を高めたり、届けるためにビジネスモデルを柔軟に変更できる能力を持つ方が成長しています。
「ビジネスモデルキャンパス」というフレームワークは、価値提案が中心軸にあります。ビジネスの価値を顧客にどう届けるか、どう作るかが重要なテンプレートです。今回はこのフレームワークを活用して、どうすれば顧客に価値を提供できるビジネスプランを作れるかについてお話しします。

顧客に価値提供できるビジネスプランの作り方

-初めての起業でも使いやすいフレームワーク「ビジネスモデルキャンパス」
宮地さん:ビジネスモデルキャンパスは、ビジネスモデルを可視化するためのテンプレートです。9つの箱があり、箱を埋めていくことでビジネスモデルを練ることができます。ビジネスモデルキャンパスの利点は、人に説明するための共通言語として使えることです。可視化されることによって、誰もがビジネスの概要を直感的に理解しやすくなります。また、コスト構造の比較検討にも便利です。使い勝手が良く、学生などビジネス経験のない方が「ビジネスって何だろう?」と考えるレベルから使用できます。

ビジネスモデルキャンパスは、顧客に何を提供するかという「価値提案」を中心に、顧客にどう提案するか、価値を生み出すために誰と何をするのかを表しています。両端には、それぞれに関わる人が入ります。
図の右側は、右端の顧客(CS)に対してカスタマーリレーションをどう築くか(CR)、顧客に価値をどのように届けるか(CH)を記載することで、その関係性を見ることができます。左側は価値を作る際の協力者(KP)が端に入り、価値提案を作るための活動(KA)やそのために必要なリソース(KP)を記載することで、ビジネスモデルを細かく設計できます。下図のように、左半分と右半分を一連の流れと考えると、イメージしやすいと思います。

価値提案が重要といっても、いきなり価値を考えるのは難しいことです。なので、まずはどの箱からでもいいので埋めてみましょう。大事なのは9つの箱をすべて埋めることです。はじめのうちは精度を気にする必要はありません。

-整合を取るように埋める
宮地さん:次に大事なことは、整合を取るように埋めることです。
例えば、価値はわからないけど化粧品を売ってみたいとしたら、価値提案に化粧品と書きます。高級化粧品を売りたいなら顧客(CS)を富裕層のシニアに、売り方(CH)は高級デパート、顧客に商品を知ってもらう(CR)には新聞広告などと考えていきます。これがもし低価格商品なら300円ショップで販売するかもしれません。しかし、高級化粧品を300円で売ったら高級になりませんね。これが整合です。
左側も同様に埋めていくと、細かく考えなくてはいけないところがでてきます。自社で開発する開発研究費とライセンス料のどちらが安いか検討してみるなど、整合を取りながら精度を上げていきます。


丸山:ビジネスモデルキャンパスは壁打ちにも役立ちそうですね。自分の中では整合性が取れているつもりでも、意外とつじつまが合っていないなんてこともありますし。

宮地さん:そうですね。自分で考えるのもいいし、仲間と共有したり、ほかの人に説明したりするにも役立ちます。ビジネスの最初は思い込みでもいいので、アイデアをフレームワークに落とし込んでみて、外部の方の意見を聞いてみるのも良いと思います。

具体例を見て学ぶ

宮地さん:ここからはビジネスモデルキャンパスを使って、成長しているベンチャーがいかに価値提案を柔軟に変化させたかについて見ていきたいと思います。事例1と2は、顧客の声から価値を再発見した例です。事例3は、価値提案のためにビジネスモデルを変えた例をご紹介します。

-事例1 味覚分析のベンチャー
宮地さん:この企業は大学の特許技術を活用して起業しました。ニューラルネットワークを使った、人の味覚に近い分析をできることが強みです。下図は創業時の様子をビジネスモデルキャンパスで表しています。

技術はありましたが、大手食品企業ではすでに人を使った味覚分析が定着していたので、受託営業ではなかなか売り上げにつながりませんでした。そこで思いついたのが「先生営業」です。書籍やテレビなどメディアを徹底的に活用し、味について教えてあげる営業にしたことで、コンサルテーションの仕事が増加しました。

大きく変化したのは価値提案です。味覚分析をしていることには変わりありませんが、「人の味覚近い味覚分析」から「味の可視化」という価値提案に変わっています。価値に気がついたことで、チャネルや顧客、顧客との関係、活動内容が変わっているということがわかると思います。

-事例2 おやつのサブスクリプションサービス
宮地さん:ふだん食べているお菓子を安全で素朴なものにできないかとサブスクリプションで起業された方の例です。

この起業家は、ファンやコミュニティからフィードバックを受けるなかで、顧客が求めているものは安全なお菓子だけではなく、むしろお菓子の楽しい体験だということに気づきました。それから単にお菓子を提供するのではなく、ブランディングやパッケージなど顧客へのサプライズを上げることなどでサービスを洗練することができ、顧客が増加しました。

お菓子を調達し、ECサイトで届けるという方法は変わっていませんが、価値が何かということに気づいたことから、やるべきことがよく見えるようになったそうです。
どちらの事例も顧客が求めている価値に気づいたことで、それを実現するために必要なことが変わっています。

-事例3 養豚の直販事業
宮地さん:最後は養豚農家として育てている豚の価値を伝えるために、ビジネスモデルを変えた例です。

多くの養豚農家はJA(農協)に豚を卸しています。私たちが手にするお肉は、JAから後の工程で加工処理等が行われ、小売店に流れてきたものです。養豚の一般的なビジネスモデルですが、これでは一生懸命育てた豚が消費者にどのように届いているのか、求めている価格や品質を農家は知ることができません。カスタマーリレーションやチャネルが貧弱で、農家と消費者は切り離されている状態です。
ここに課題を感じた事例の養豚農家では、価値提案である「甘くてコクがあって胃もたれない豚肉」を消費者に届けるために、新たなチャネルを開拓しました。

課題を解決する方法はECサイトを活用した直販ですが、野菜や米と違い、加工する工程のある肉の直販は容易なことではありません。この養豚農家では、一度JAに豚を出荷し、加工された肉を卸問屋からすべて買い戻すことでこれまでの流通経路を変え、自分たちが育てている豚の価値を消費者へ直接伝えることに成功しました。

ビジネスプランを作るうえで重要な点は、実現のために実際は何をすればいいか深く考えることです。養豚の事例では、新たなチャネルとして直販と書きますが、それだけでは実現に至りません。まずは考えていることを書いてみて、9つの箱に記したことを細かく深堀していくことで、ビジネスモデルキャンパスをさらに活用できます。

どのような時も顧客に提供する価値を考えるのが重要

丸山:コロナ禍でプラン立てに困っている方もいると思います。どのように考えていけば良いでしょうか。

宮地さん:ビジネス環境の変化で厳しい時かもしれませんが、こういう時にこそ少し俯瞰して、提供する価値の変化を見つめるべきではないでしょうか。コロナ禍に関わらず、世の中の流れや社会環境は変わっていくものです。望まずしてパートナーや顧客との関係が変わることもあります。そういった際に「顧客のセグメントを変えるか?」「チャネルを変えたら顧客に提供する価値は変わるか?」と俯瞰して価値を考えると、他社とは違う競争力のあるビジネスプランを生み出すきっかけになると思います。

丸山:その時折で、整合性に注意しながらビジネスプランを書き換えて、質を高めていくということですね。

宮地さん:そうですね。何かが変わらなくてはいけない時に、そこだけに注力するのではなく、全体を見て真ん中にある価値は何かと考えていただきたいです。わからないことがあれば、お気軽にご相談ください。