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起業家インタビュー

手術×AIが医療を変える 医師と経営人材の共同創業が実現する安全な手術

K-NIC会員の医療系ベンチャー・株式会社iMed Technologiesにインタビュー!

手術×AIが医療を変える 医師と経営人材の共同創業が実現する安全な手術

川崎市にある起業家支援拠点&コワーキングスペース・K-NICを利用しながら活躍されている起業家に、
起業までの軌跡やK-NICの便利な活用方法などをインタビューするシリーズ。

今回は、NEDOのSeed-stage Technology-based Startups(STS)・NEDO Entrepreneurs Program(NEP)や東大IPCの1st Roundに採択され、2020年10月には1.7億円の資金調達にも成功した医療系ベンチャー、株式会社iMed TechnologiesのCOO金子素久さんにインタビュー!

経営のプロとしてキャリアを歩んできた金子さんが、なぜ医療分野で共同創業に至ったのか。AIが支援する新しい脳血管内手術の未来と、それに至るまでのエピソードをうかがいました。

起業家プロフィール

株式会社iMed Technologies
URL:https://imed-tech.co.jp/

金子 素久氏/共同創業者・取締役COO
邦銀でプライベート・エクイティ投資や債券投資に従事。その後、経営共創基盤(IGPI)にて、ITや医療分野などでの事業戦略立案、スタートアップ投資等の経験を積む。講師を務めるビジネススクールで、脳血管内治療指導医である河野健一氏(CEO)と出会い、共同創業者として株式会社iMed Technologiesを設立。経営面を一手に担い、シード期の資金調達を成功させた。

意外な出会いが起業のきっかけに

――金子さんの事業について教えてください。
「世界に安全な手術を届ける」をコンセプトに、脳血管内手術向けの手術支援AIを開発しています。
脳血管内手術は脳梗塞やくも膜下出血を治療する手術です。開頭せず血管内に器具を入れるため、医師はX線画像を見ながら、脳血管内を立体的にイメージして手術を行います。小さい手術器具を複数使いながら、血管を傷つけないようにカテーテルなどを進めるため、同時にいくつもの箇所を注意する必要があります。そのため、3~4時間に及ぶ手術の間、一度の見落としもなく手術を行うのは現実的に難しいという課題があります。どんなに注意しても血管の穿通事故は1%も発生していると言われており、1%と言うと、1日に羽田空港の飛行機が10機も落ちているようなレベル。無視できる数字ではありません。
私たちはこうした手術現場を支援するために、手術画像を解析し、危険な時には医師に知らせるAIを開発しています。

実際の脳血管内手術の様子

実際の脳血管内手術の様子

――金子さんはこれまで経営の道を歩まれていますよね。なぜ医療分野で起業しようと思ったのでしょうか。
CEOの河野との出会いがあったからです。
以前から、一から何かを作って社会に問う経験をしたいと思っていました。特にコンサルティングで医療分野に携わった際、医療には夢があると強く感じました。自分が作ったもので人の命を救うことができるというのは、とても社会貢献性が高い。次に何か新しいことをやるのなら、医療分野と考えていました。
ただ、医療のスタートアップは業界のインサイトや人脈がないと話にならないため、メンバーに医師が不可欠です。起業するなら医師とともに興そうと思いつつ次のキャリアを考えていた頃に、講師をしていたビジネススクールで河野と出会いました。

――出会いがビジネススクールとは…!医師の河野さんも意外なところに顔を出していますね。
河野は新しい知識を身に着けることが好きなのでしょう。講師と生徒なんて、珍しい出会い方だと思います。
彼の医師としてのキャリアは素晴らしいもので、国内に約350人ほどしかいない脳血管内治療指導医です。彼が起業の可能性も検討しているということで、私から「ディスカッションしませんか」と声をかけました。
私一人ではもちろん医療分野では起業できなかったですし、彼も私が声をかけていなければこのタイミングでは起業していなかったと思います。私の最大の価値は、彼の背中を押したことかもしれないですね(笑)。経営的視点としては、医療は数少ない成長セクター。その中で、「脳血管内手術×AI」に取り組んでいるプレーヤーは見当たりませんでした。先行優位性を築きやすいという考えもあり、2018年の秋ごろに声をかけて、2019年の4月に株式会社iMed Technologiesを共同創業しました。

認知が信頼を 信頼がお金を お金が技術を生む

――お二人とも起業は初めてだというのに、資金調達も順調で理想的に事業が進んでいるように見えます。どのように歩みを進めていったのでしょうか。
最初は知らないことだらけでした。二人とも薬事や特許の知識がなかったので、起業家の仲間やアドバイザーに話を聞いたり、セミナーに行ったりしながら手探りで進めました。毎日のように戦略が変わる日々。二人だけなので、開発も初めのうちは外注です。当時は本当にコンセプトだけでやっていましたね。

――そこから、NEDOや東大IPCなど数多くのアクセラレータープログラムに採択されていますが、これは戦略だったのでしょうか。

受賞・採択実績

結果的ですね。起業して1週間後くらいに、偶然NEDOのNEPが締め切りということで、応募したのが始まりです。その後、BRAVE 2019や東大IPCなど様々なプログラムに参加して企業名を認知させていきました。プログラムを通して得た人脈を広げ、薬事の専門家などに話を聞き、活動の中からヒントを掴んで、やっとスケジュールを立てられるようになったくらいです。
こうしたプログラムに参加すると、色々な方からアドバイスをしてもらえますよね。最初はお金がなく、無料で相談に乗ってくれる人は本当に貴重なので、プログラムを最大限に活用することが重要でした。
また、NEDOに採択されると企業としての信頼度が破格に上がります。特に、起業直後にNEPに採択いただいたことにより、研究開発型ベンチャーとして認知され、投資家の印象が圧倒的に良くなったと感じます。
まずは様々なところに顔を出して認知してもらい、そこで信頼を得ることが資金調達につながるのではないでしょうか。

――直近では第三者割当増資で1.7億円の資金調達にも成功されましたね。
その資金調達にも色々なプログラムに参加した成果が表れていると思います。例えば、リード投資家であるSBIインベストメント株式会社のファンドは、SBIホールディングス株式会社が共催しているピッチコンテスト「日本アントレプレナー大賞」で大賞を取ったことが、今回の検討俎上に乗った大きな要因だと思います。VCには断られるのが基本のようなところがありますが、最後のひと押しとなるこうした縁は、とても重要なのだと感じます。

――はじめは手探りでもかたちになったのは、金子さんが経営担当として資金調達を行えたからでしょうか。河野さんの人脈があったからでしょうか。
どちらがというわけではないと思います。可能性があるなら会いに行ってみるとか、色々と動き回ることで人脈を広げるとともに、少しずつチャンスを積み上げていったのだと思います。今回の資金調達ができたのは、医療・テクノロジーの河野と、ビジネス・経営の私というバランスが良かったというのは大きいと思います。私だけではもちろん無理ですが、河野だけでも今回のような資金調達はできなかったと思います。

共同創業のポイントは、意思決定と役割分担の明確化

――二人だったからできたことなのですね。一方で、一般に共同創業は難しいイメージもあります。気をつけているポイントはありますか。
最終的な意思決定を誰がするのかは、明確にしておいた方が良いのではないでしょうか。株式を分散させて意思決定の収拾がつかなくなるとか、共同創業者同士で揉めるという話はよく聞きますよね。ベンチャーは暗中模索する時期も長いですから、常に関係が順風満帆なわけはありません。私たちは起業してすぐに、株主間契約など株式とガバナンスにかかわる取り決めをしました。人間関係をあまり過信せず、株式や意思決定権などを仕組みで担保し、瓦解しそうになった時には引き取ることを決めておくことが大切だと思います。
重要なのはこのメンバーで上手くやれるかということです。少しでも疑問を持つのであればやめた方がいい。ちょっと違うなと思ったことがあっても、すり合わせていけばいいと思っていると、そのちょっとしたズレがだんだん大きくなっていく。そういう企業を見たことがあります。私たちの場合は、意思決定のほかに、役割分担が明確に分かれているというのが良かったと思います。

金子氏

――技術と経営という点ですね。
そうです。私は自分のバックグラウンドを活かして医療領域で新しいものを作りたかった。役割としては彼のやりたいことを経営として実現することになるので、技術的な衝突は発生しえません。河野はビジネスも考えますが、興味はテクノロジーにある。私はどちらかというとビジネスとして、組織としてどう成長させていくかに興味があります。最終的には安全な手術を世界中に届けられればいいのです。
肩書ではなく、役割が分野としてきれいに分かれていることは、共同創業がワークしやすいのではないかと思います。

――金子さんから見て、技術者バックグラウンドの経営者が、経営人材をチームに入れる時に何を見るべきだと思いますか?
自分で手を動かして泥臭くやれる人かというところではないでしょうか。評論家が入っても何も進みません。会社にたくさんある雑務もフットワーク軽く、色々なことを地道に泥臭くやっていけるか、という点は重要だと思います。見極めるのは難しいことですが、例えばミニプロジェクトを一緒に行う期間を作ってみるのも良いと思います。当社もエンジニア採用の際には1か月ほどインターンを行いました。一緒に働いて、コミュニケーションをしてみて、違和感がないかを確認されてはいかがでしょうか。

K-NICとのつながり

――K-NICを知ったきっかけは?
NEPのイベントがK-NICで開催されていたので、その時に施設を利用したのがきっかけです。コロナ禍では、リモートワーク場所としてよく利用させていただきました。

――金子さんはMEDISOという厚生労働省の支援サービスを活用していたそうですが、起業支援を活用するメリットはどこにあると感じますか。
無料で専門家からアドバイスをいただけるところでしょうか。ベンチャーの立ち上げ期は自己資金しかないですし、普通の人が立ち上げた会社が使える資金なんて多くても数百万が関の山です。気前よく使っていたらすぐになくなってしまいます。ベンチャーにとって、無料はとても大きいことなんです。その点で、存在価値はとても高いと感じます。
もし、少しでもわからないと思う領域があるなら、無料で行けるところにはすべて行った方がいい。そこから生まれるのは質問の答えだけではなく、縁です。それを積み重ねていかなければ、ベンチャーは生き残れないと思いますね。

トップスピードで世界に安全な手術を届ける

――最後に、今後のビジョンについて教えてください。

事業の意義に共感し、集まった現メンバー

事業の意義に共感し、集まった現メンバー

2022年中には初めてのプロダクトを完成させ、国内販売をする予定です。その後は、アメリカや欧州など世界各国に展開することが成功を決める重要なファクターとなります。他社とのパートナシップなど、世界展開をどう実現していくのかが、私にとっての大きな目標です。もっと先の未来では、手術技術のあるハンドロボットと私たちの技術を組み合わせるロボット連携も視野にあります。自律型の手術ロボットが生まれれば、より医療の発展に貢献できるでしょう。
脳血管内手術での見落としは、合併症のリスクを高めます。AIのサポートによって手術の安全性が向上すれば、救われる患者が増え、医師の負担も減ります。一分一秒が命にかかわるからこそ、この技術を早く届けたい。ものづくりも特許も薬事も、手段にすぎません。医療現場で実際に起こっている事故を少しでも減らすことに、技術も経営もつながっています。世界に安全な手術を届ける、これがすべてのミッションです。