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テックスタートアップジャーナル

創薬支援ベンチャー立ち上げを目指して 起業を選んだ研究者の挑戦【iONtarget】

「K-NIC Startup Hands on Program」に参加した田中泰圭氏にインタビュー!

創薬支援ベンチャー立ち上げを目指して 起業を選んだ研究者の挑戦【iONtarget】

2020年度から新たに開始した「K-NIC Startup Hands on Program(以下、ハンズオンプログラム)」。
今回、ハンズオンプログラムに参加した3チームに、応募のきっかけやその成果についてインタビューを実施!

第1回目は、大学で創薬研究を行う研究者で、創薬支援事業での起業を目指す田中泰圭さん。田中さんは、研究開発型スタートアップの立ち上げを目指す人を対象にした支援プログラム「タイプA」に、公募を経て選ばれました。
研究者としてのキャリアの中で起業を決断したプロセスや、K-NICスーパーバイザーによるサポートの様子、また今後のビジョンなどをうかがいました。

プロフィール

田中 泰圭氏/iONtarget(法人化を予定)
福岡大学てんかん分子病態研究所のポストドクターとして、イオンチャネルに関わるてんかんの創薬研究を行う。同研究チームのメンバーとともに、製薬会社やアカデミア、研究機関を顧客に想定した創薬支援事業を展開予定。

イオンチャネルに関わる創薬支援事業での起業を目指して

――早速ですが、田中さんが取り組んでいる事業内容について教えてください。
おおまかにいいますと、「創薬支援事業」を展開していきたいと考えています。具体的には、イオンチャネルに関わる疾患を治すための創薬支援とご理解いただければと思います。
まず、イオンチャネルとは何ぞやというところですが、これは細胞の生体膜にある膜貫通タンパク質の一種で、神経活動や心臓の筋肉などを動かすための活動を担うチャネルタンパク質と呼ばれるものの一つになります。このイオンチャネルに遺伝変異が入ることでさまざまな疾患に陥ることはよく知られており、さらにその疾患は重篤なものが多いのです。
ただ、現在その疾患の治療薬が世の中にあまり出回っていないことから、我々が持っているiPS細胞を活用した技術や、コンピューターを使って薬を探し出す技術などを活用しつつ、製薬会社が薬を作るうえでのバックアップをする事業を考えています。

――ということは、そのイオンチャネルを標的とした薬を作っている、あるいは販売をしている製薬会社が顧客になってくるのでしょうか?
そうですね。我々のノウハウを活用したい製薬会社はもちろん、創薬研究を行うアカデミア、あるいは研究機関なども顧客になってくると考えています。

――田中さんは研究者であり、現在は福岡大学で研究職に就かれているそうですね。
はい、私の専門は分子生物学、細胞生物学といった分野になるのですが、現在は、福岡大学のてんかん分子病態研究所でポストドクターをしています。我々が研究を進めているのは、てんかんの中でもイオンチャネルのハプロ不全(※1)で引き起こされる種類のもので、いまだ根治薬がありません。
(※1)特定の遺伝子変異により、遺伝子産物の発現量が半減することで病態が惹起される場合をハプロ不全という

――研究者でありながら、創薬支援の分野で起業を目指そうと思ったきっかけは何でしょうか?

左)田中氏 右)福岡大学医学部主任教授 廣瀬伸一氏

左)田中氏 右)福岡大学医学部主任教授 廣瀬伸一氏

私のチームは、福岡大学医学部主任教授の廣瀬氏、ポスドクの柴田、木村、私の4名体制なのですが、以前から「起業をしたいですね」という話はしていて。
薬を作るということがものすごく大変だということは多くの方にイメージしていただけると思いますが、大学でできる創薬研究というのはなかなか製薬会社のそれと比べると難しいことが多いのです。
そういった中で、我々研究チームは、特定のイオンチャネルの活性を高められる化合物を見つけ出したのですが、それを薬にするまでの道のりを考えると、資金力や研究力という体力的な部分でアカデミアの限界を感じまして…。製薬会社との共同研究で薬を出すのか、もしくは我々が法人化して独自の創薬支援を行っていくのか。いろいろ模索した結果、「起業」という結論に至りました。

創業支援ベンチャー立ち上げに向けてハンズオンプログラムを活用

――今回、ハンズオンプログラムに応募したきっかけを教えてください。
もともと別の件でお世話になっていたスーパーバイザーの武田さんから、「NEP(※2)申請を検討しているなら、応募してみたら?」と、お声がけいいただいたのがきっかけです。
(※2)NEDOが実施する「研究開発型スタートアップ支援事業/NEDO Entrepreneurs Program(NEP)」

――個別サポートを担当したスーパーバイザーの印象はいかがでしたか。
親切に指導していただいて感謝しています。これまでにも科研費(※3)やAMED(※4)事業への申請は行っていたので、それらの申請書作成については慣れていたのですが、今回NEPの申請を行うにあたっては、右も左もわからない状態で。ベンチャー企業を作ることに関する書類というものを、書いたことがなかったのです。「ビジネスモデルって何ですか?」そんな状態で書くことになったのですが、小学生に教えるように根気強く丁寧に指導いただきました(笑)。
プログラム中は頭から煙が出る思いをしましたが、おかげさまでビジネスモデルをブラッシュアップすることができ、何とか申請書を書き上げることができました。おそらく、我々のチームだけでは難しかったと思います。
(※3)日本学術振興会が実施する、科学研究費助成事業
(※4)国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)

――2カ月の支援期間中、スーパーバイザーとのメンタリングはどれくらいのペースで行われましたか?
週に1回、オンラインで行いました。メンタリングごとに、来週までにこれをしてください、あれを調べてくださいといった感じで宿題をいただいて。メンタリングとは別に、メールや電話での相談も快く受けてくださいました。

――スーパーバイザーからのアドバイス、結構辛口ではなかったでしょうか?
アドバイスが非常に的確でしたし、ハッキリと言ってくださるほうが直しやすいので、そういう風には感じませんでした。
我々の申請書を自分の物のようにとらえ、もっと良くするにはどうしたらいいかを一緒に考えていただいたり、一つひとつが勉強になりました。プログラム終了後もいろいろ相談に乗ってもらっていますし、このご縁は大事にしたいなと思っています。

メンタリングを通して自分たちのベンチャー像や研究スタイルを確立

――メンタリングの中で、印象的だったアドバイスはありましたか?
申請書の中で研究計画やビジネスモデルなどを記載するのですが、私のような研究者が書くと、どうしても研究計画に偏りがちになるんですね。そんなとき、「この書き方は、NEPではなく科研費申請用ですね」「これはAMED申請用ですね」と指摘が入ります。「では、どうしたらビジネスモデルを描けるのか」というところをうまく教えていただくことができました。
また、研究者の私が計画書を作成する際、つい研究費として取得してきた数百万円をベースに考えがちです。「売上は、1億、2億円くらい見込めればいいかな」と思っていたのですが、ハッキリ「最終的には50億円くらいは見込まないと」とダメ出しが…(笑)。我々が持っているノウハウを使ってどのように社会貢献し、収益を得るか。それを何年後にどうするか、などなど非常に的確なアドバイスをたくさんいただきました。

――資金調達の面で何か役立ったことはありますか?
NEPの申請にあたり、プログラムを通して福岡のVCを紹介いただくことができました。
今回は残念ながら申請は通りませんでしたが、ベンチャーとしてあるべき姿や研究スタイルの確立につながる素晴らしい経験となり、大変勉強になりました。プログラムに参加できて良かったです。

難治の病で苦しむ世界中の人たちを自分たちの技術で救いたい

――今後の予定についてうかがえればと思います。
今回のプログラムを活用して作ったNEPの申請内容をベースに、創薬支援事業を行うベンチャー、「iONtarget(イオンターゲット)」を立ち上げる予定です。
今は、我々が見つけているヒット化合物の効果を、てんかんに罹った動物でPoC(※5)を取る研究を進めています。また、我々は「薬を評価する」というノウハウも持っていますので、製薬会社から依頼された化合物の評価を行いながら、我々独自の化合物も検証し製薬会社に提出していくという二本立てで走り出していけたらと考えています。
(※5)Proof of Concept(PoC)。概念実証

――最後になりますが、「iONtarget」が目指すゴールについてお聞かせください。

福岡大学てんかん分子病態研究所 研究チーム

福岡大学てんかん分子病態研究所 研究チーム

最終的には、独自のパイプラインを作ることで、イオンチャネルをターゲットにした創薬を世の中に広めていけるようなベンチャーとして成長していきたいです。
イオンチャネルに関わる疾患対象は、てんかんにとどまらず幅広いので、いま難治の病で苦しんでいる患者さんたちを、自分たちの技術で一人でも多く救えるような社会を目指していきます。

スーパーバイザーコメント

武田 泉穂
K-NICでは、バイオテックとヘルスケアのスタートアップ支援を担当。薬機法、臨床試験、市場創出、海外展開等を踏まえたヘルスケア産業の事業開発の実績を多数持つ。
https://www.k-nic.jp/supportor/149/

田中さんはこれまで研究者ど真ん中でおられ、リサーチではとても高い成果を上げておられました。今回、私自身も田中さんが創薬ビジネスや起業についてどこまで吸収してくださるか、大変チャレンジングなスタートでしたが、私の心配とは裏腹に、どんどん吸収しご理解され、思わず田中さんに「研究者やめて起業家になりましょう」とお伝えした記憶も鮮明です。彼らの技術が煮詰まり田中さんも起業家に転身して(!)今後どのように社会に還元されていくか、とても楽しみです。

「K-NIC Startup Hands on Program」とは
特定の技術シーズを持ち、NEDOが実施する研究開発型スタートアップ支援事業等へのエントリーを目指す起業家候補や研究開発型スタートアップに対し、短期集中の個別サポートを通して、起業の促進及び事業化の加速を目指すプログラムです。

①事業化支援
K-NICの支援人材による継続したメンタリングなどを通して、ビジネスプランのブラッシュアップや事業化に係わるアドバイスを実施。
※メンタリングの回数・頻度は、オンラインで月2回、1回あたり2時間程度。
②アライアンス支援
投資家やVC、協業可能性のある企業・連携先人材等の紹介・斡旋。
③資金獲得支援
NEDOをはじめとする各種公的資金の紹介や申請に係るアドバイスを実施。
ギャップファンドやVC、金融機関などの紹介・斡旋、金融機関の口座開設等に関わるアドバイス。

プログラムの詳細、募集についてはK-NIC運営事務局までお問い合わせください。
電話番号:044-201-7020(緊急事態宣言期間中は平日13時~20時)
メールアドレス:info@k-nic.jp

\動画もチェック!/
https://youtu.be/4pO7Ww75kTk