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起業家インタビュー

大学発バイオベンチャーの挑戦 経営人材×研究者のタッグが生み出す難治性がん治療薬【オプティアム・バイオテクノロジーズ株式会社】

「K-NIC Startup Hands on Program」に参加したオプティアム・バイオテクノロジーズ株式会社 代表取締役の西岡駿氏にインタビュー!

大学発バイオベンチャーの挑戦 経営人材×研究者のタッグが生み出す難治性がん治療薬【オプティアム・バイオテクノロジーズ株式会社】

2020年度から新たに開始した「K-NIC Startup Hands on Program(以下、ハンズオンプログラム)」。
参加した3チームに、応募のきっかけやその成果についてインタビューを実施しました!

今回は、2020年6月に創業した愛媛大学発のバイオベンチャーであるオプティアム・バイオテクノロジーズ株式会社 代表取締役の西岡駿さん。同社は、がんをはじめとする難治性疾患の抗体医薬品開発に取り組んでいます。

証券会社時代に生まれた起業への火種や研究者との共同創業、ハンズオンプログラムを通して得たこと、今後のビジョンなどについて伺いました。

プロフィール

西岡 駿氏/オプティアム・バイオテクノロジーズ株式会社 代表取締役
大手証券会社勤務を経て、愛媛大学大学院医学系研究科の越智俊元特任講師とともに「オプティアム・バイオテクノロジーズ株式会社」を創業。
https://optieumbio.com/

研究者とタッグを組み、がん免疫治療薬を開発

――オプティアム・バイオテクノロジーズの事業内容について教えてください。
当社は愛媛大学発のバイオベンチャーで、がん免疫療法という分野で事業を展開しています。がん免疫療法とは、人間の免疫細胞を活性化させてがんを撃退する治療法です。「第4のがんの治療法」とも呼ばれ、京都大学名誉教授の本庶佑氏がノーベル医学生理学賞を受賞した治療薬、オプジーボなどが有名ですね。
がん免疫療法の中でも我々が携わっているのは、CAR-T(カーティ)細胞療法と呼ばれるもので、最初の薬ができたのが2017年。がん治療におけるゲームチェンジャーとも呼ばれていて、非常に効果の高い薬として注目されています。

――CAR-T細胞療法について、もう少し詳しく聞いてもよいですか?
CAR-T細胞療法とは、患者さんから採取したT細胞という免疫細胞にがん細胞を攻撃する遺伝子改変を加えたあと、再び患者さんの体内に戻し、がんを治療するというものです。通常の免疫機能だけでは完全に死滅させることが難しい、難治性のがんに対する治療法として開発されました。
ただ、CAR-T細胞療法には、開発における課題が多く残されています。CAR-T細胞の中には「一本鎖抗体(scFv)」という、がん細胞に結合する抗体があるのですが、この抗体のがん細胞への結合力が高すぎると、CAR-T細胞が疲弊し、細胞死を招きやすくなってしまうのです。そこで、この「一本鎖抗体」をファインチューニングし、がんをより撃退できる効果の高い姿かたちに改変する、というのが我々の持つ「Eumbody System™」という技術になります。今年1月に国内特許も取得しました。

――CAR-T細胞医療は、今後市場規模の拡大が見込まれていますね。この分野でベンチャーを立ち上げた経緯をお聞きかせください。
私は証券会社の出身で、当時は投資銀行部門のヘルスケアセクターで製薬会社やバイオベンチャー、化学、医薬品卸等の企業を担当し、M&Aや資金調達の支援を行っていました。いろんなバイオベンチャーにお邪魔させていただく中で、この仕事の尊さやエキサイティングな部分に惹かれ、「いつか自分も実業をしてみたいな…」という起業への意欲が生まれたのです。
さまざまな可能性を模索していく中で、VCの担当者と話をする機会を得ました。その中で、「愛媛大学に越智先生という人がいて、がん免疫療法における新技術を持っている。彼はヘルスケアセクターに明るいビジネスマンを探していて、その技術を社会実装したいと考えている。もし興味があったら、彼と一緒に会社を立ち上げてみないか」というオファーをいただいたのです。

――きっかけは、VCのお引き合わせだったのですね。
はい。それが、2019年春頃のお話。そこから自分で技術調査や市場関係のリサーチをして、同年夏に越智先生と初めてお会いしました。そこで意気投合し、約一年間の準備期間を経て、2020年の6月にオプティアム・バイオテクノロジーズを創業するに至りました。

オプティアム・バイオテクノロジーズ株式会社 HP

オプティアム・バイオテクノロジーズ株式会社 HP

研究とビジネス、互いの役割分担を明確に

――創業科学者という肩書で一緒に会社を立ち上げた越智先生ですが、最初にお会いしたときの印象はいかがでしたか?
越智先生とは最初、横浜の飲み屋でお会いしたのですが、とても誠実で真面目な方という印象を持ちました。研究やビジネスのことなど互いに思っていることを膝を突き合わせて話したところ、とても理解がありユーモアのある先生だったので、ご一緒できたら楽しそうだなと率直に思いました。

――研究開発型スタートアップでは、研究者とビジネスマンがタッグを組むという例をよく聞きます。事業のパートナーを選ぶ際、重要視していたことはありましたか?
研究については研究者の方が行い、私はビジネスを担当する、というように明確な役割分担をしたいと考えていました。会社としてうまく成立させるためにも、そこをきちんと区分できる人がいいなと。
バイオという分野はどう事業化するか、顧客やマーケットに対して自分たちの研究をどう訴求していくかというのが非常に難しい分野です。その部分をきちんと噛み砕き、ビジネスとして回していく発想が大事だと思います。私は自らの手を動かして研究することはできないので、そこは研究メンバーにまかせ、ビジネスの部分で会社を導いていけるよう、あえて役割分担をハッキリさせています。

STSの公募チャレンジに向けてハンズオンプログラムに参加

――西岡さんがハンズオンプログラムを知ったきっかけを教えてください。
人材の採用面で苦心しているとき、K-NICのスーパーバイザーでもある武田さんに相談させてもらったところ、「ハンズオンプログラムがあるよ」と教えていただきました。その頃、NEDOの STS(※1)第3回公募を検討するタイミングでもあり、これは絶対獲得したいもののひとつだったので、公募にチャレンジするためにもビジネスプランをブラッシュアップしなくてはと考え応募しました。
(※1)NEDOが実施する「シード期の研究開発型スタートアップ(Seed-stage Technology-based Startups)に対する事業化支援事業」

――個別サポートを担当した武田さん、岡島さんによるメンタリングはいかがでしたか?
ハンズオンプログラムが始まる前、自社の事業展開についてある程度のイメージは持っていたのですが、それを具体的に言語化するところまでは落とし込めていませんでした。
武田さんはライフサイエンスに精通されていて、我々の研究分野についてもよくご存知です。彼女を相手にディスカッションという壁打ちをしていくうちに、自分たちのビジネスモデルが磨かれていきました。
結果、芯のしっかり通った研究計画やビジネスプランを作成できたのですが、それはライフサイエンス分野の細部やバイオベンチャーの経営、マネタイズの仕方まで幅広くアドバイスいただけたからだと思います。

一方の岡島さんはとてもバランス感覚に長けている方で、STSの申請書作成にあたり「どうやって人に見せるべきか」「どうやって物語にして伝えるべきか」というロジックを教えていただきました。プログラムを通して密なやり取りをさせていただいたのが印象に残っています。

ビジネスプランを磨いていくにあたり、このお二人にタッグで見ていただけたことが非常に良かったです。

スタートアップ創業期の採用難を乗り越えて

――ちなみに、さきほど採用面で苦心したと仰ってましたね。現在はいかがですか?
一時期とても苦労しましたが、幸い優秀なエージェントとの出会いがあり、新たに3名の研究者が今年の5月までに順次入社する予定です。
スタートアップが優秀な人材を獲得するのは大変と言われる中、パッションを持った人たちが我々の理念に共感し、ジョインしてくれるのはとてもうれしいです。

難治性疾患の治療薬を世の中に広めていきたい

――今後の予定についてうかがえればと思います。
短期的なところでいうと、近くSTSの第2次面接が控えていまして、越えなければならない山のひとつです。バイオベンチャーにとって、STSの助成金は命綱ともいえる非常に重要な位置づけになるので、ここはしっかり取っていきたいですね。
また、研究チームの基盤が固まるのが今年の5月なので、そこへ向けてしっかり体制を整え、製薬会社との共同研究を進めていきたいと思っています。
今年は大きな資金調達をしなければならないので、そのあたりもきちんとこなしていきたいです。

――会社を軌道に乗せていくにあたって重要な一年になりそうですね。最後に、オプティアム・バイオテクノロジーズが目指すゴールについてお聞かせください。
我々が持つ「Eumbody System™」という技術はCAR-T細胞の機能強化のためのプラットフォームであり、CAR-T細胞以外の技術、治療法にも応用可能です。初期段階では難治性がんの治療薬を多く世の中に広めていきたいと思っていますが、より大きなピクチャーで言うと、ゆくゆくはがん以外の疾患領域の治療薬も出していきたいです。
多くのがんや難治性疾患の患者さんを救えるよう、我々の技術で社会に貢献していきたいと思います。

スーパーバイザーコメント

武田 泉穂
K-NICでは、バイオテックとヘルスケアのスタートアップ支援を担当。薬機法、臨床試験、市場創出、海外展開等を踏まえたヘルスケア産業の事業開発の実績を多数持つ。
https://www.k-nic.jp/supportor/149/

西岡さんはもともとバイオベンチャーの事業開発に明るく、逆に私自身が勉強させていただいた部分も多々ありました。今回は、グラント申請のコツやライフサイエンスビジネスの細かい部分や注意点など、テクニカルな点を含めてお伝えさせていただきましたが、次の機会にはその150倍、200倍になって返ってきたので、とてもやりがいがありました。お人柄もスキルもご経験も申し分なく、これを機に、今後のディープテック界隈の起業家としてシリアルにご活躍されること間違いないと思います。

「K-NIC Startup Hands on Program」とは
特定の技術シーズを持ち、NEDOが実施する研究開発型スタートアップ支援事業等へのエントリーを目指す起業家候補や研究開発型スタートアップに対し、短期集中の個別サポートを通して、起業の促進及び事業化の加速を目指すプログラムです。

①事業化支援
K-NICの支援人材による継続したメンタリングなどを通して、ビジネスプランのブラッシュアップや事業化に係わるアドバイスを実施。
※メンタリングの回数・頻度は、オンラインで月2回、1回あたり2時間程度。
②アライアンス支援
投資家やVC、協業可能性のある企業・連携先人材等の紹介・斡旋。
③資金獲得支援
NEDOをはじめとする各種公的資金の紹介や申請に係るアドバイスを実施。
ギャップファンドやVC、金融機関などの紹介・斡旋、金融機関の口座開設等に関わるアドバイス。

プログラムの詳細、募集についてはK-NIC運営事務局までお問い合わせください。
電話番号:044-201-7020(緊急事態宣言期間中は平日13時~20時)
メールアドレス:info@k-nic.jp

\動画もチェック!/
https://youtu.be/4pO7Ww75kTk