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起業家インタビュー

技術者が大学発ベンチャーを立ち上げた理由 大学に眠る技術シーズを社会へ【メドリッジ株式会社】

「K-NIC Startup Hands on Program」に参加したメドリッジ株式会社 代表取締役の益田泰輔氏にインタビュー!

技術者が大学発ベンチャーを立ち上げた理由 大学に眠る技術シーズを社会へ【メドリッジ株式会社】

2020年度から新たに開始した「K-NIC Startup Hands on Program(以下、ハンズオンプログラム)」。
参加した3チームに、応募のきっかけやその成果についてインタビューを実施しました!

今回は、エンジニアリング技術を活用した医薬研究用機器の開発・製造・販売を行う名古屋大学発のベンチャー、メドリッジ株式会社 代表取締役の益田泰輔さん。同社は、研究開発型スタートアップを立ち上げた法人を対象にした支援プログラム「タイプB」に、公募を経て選ばれました。
技術者から起業家を目指した経緯やハンズオンプログラムの手応え、これからの事業展望などについて伺いました。

プロフィール

益田 泰輔氏/メドリッジ株式会社 代表取締役
名古屋大学大学院ライフシステム研究所と共同で、技術プラットフォームを構築。研究者として得た知見・技術を、メディカル業界に橋渡しするべく2019年1月に創業。
https://medridge.co.jp/

がんで苦しむ人たちをエンジニアリング技術で救いたい

――メドリッジの事業内容について教えてください。
私自身がエンジニアリングの技術者であり、名古屋大学ナノライフシステム研究所の研究室と共同で、マイクロ・ナノレベルの微細加工技術と、センサやアクチュエータ(※1)、ロボットなどのシステム化技術を基盤とした技術プラットフォームを構築しています。弊社では、ここから派生した技術を、医療、医薬研究、ヘルスケア等のメディカル業界に‟橋渡し”する事業を展開。社名の「メドリッジ」は、‟メディカル”と“ブリッジ”を掛け合わせたものです。
(※1)入力されたエネルギーやコンピューターが出力した電気信号を、物理的に運動に変換する、機械・電気回路を構成する要素

――コアな事業として取り組まれていることは何でしょうか?
事業の柱としては、がんで亡くなる方を減らすために、がん患者の血液の中からがん細胞を見つける装置を開発しています。
がんが転移していく際、がん細胞は血管やリンパ管を破って他臓器等に広がっていきます。血液の中を循環しているがん細胞を「血中循環腫瘍細胞(CTC)」と言い、1ml中の血液に含まれる約60億個もの血液細胞のうち、数個程度しかない希少な細胞です。これらをなるべく早期に発見することが求められており、弊社の手掛ける装置はそれを可能にします。

――具体的にはどのような仕組みの装置になるのでしょうか?
マイクロ流体デバイス(※2)を用いて、血液の中からがん細胞だけをフィルタリング(細胞分離)し、さらに分離した細胞を単一細胞レベルで分取するという仕組みです。この「細胞分離」と「分取システム」という2つの技術を組み合わせた「自動細胞分取装置(レアセルソーター)」や、その関連技術を弊社では提供しています。
(※2)特定の臨床検査のために、マイクロチップ上で極めて微量の液体を扱うための装置

細胞分離・分取システム事業(Single Cell Isolation)イメージ

――起業を目指したきっかけについて教えてください。
名古屋大学ナノライフシステム研究所の新井史人教授(現東京大学)とともに、試行錯誤しながら血中の希少な細胞をいかに効率よく分離するかという研究を続けていたところ、ある時とてもシンプルな方法で分離できる方法が見つかりました。「これは事業化を目指せるのでは」と思い、大学発ベンチャーの助成金申請などに応募していくうちに、起業への外堀が埋まっていったという流れです。
マイクロ流体チップやナノ技術については、いろいろな形で社会に還元されていますが、医療の分野ではまだまだ発展途上だと思っています。この技術を、がんで苦しんでいる方たちのために使えるものにしたい。エンジニアリングはサイエンスと違って、「使ってもらってなんぼ、社会に貢献できてなんぼ」というところがあるので、そういった部分も起業へのモチベーションのひとつでした。

メンタリングを通して綿密なビジネスのシナリオを描く

――ハンズオンプログラムの参加前後で、変化や気づきはありましたか?
まず、ピッチ資料がとてもわかりやすくなりました。メンタリングで資料作成における重要ポイントをいくつも教えていただき、勉強になりました。さらに、「売り上げをどう出していくか」という部分についても、投資家に納得してもらえる形にブラッシュアップされたと思います。
売り上げ見込みの根拠は自分の中では成立していたのですが、スーパーバイザーから客観的な視点で、次のステップを見越した準備も必要だというアドバイスをいただきました。

――個別サポートを担当した岡島さん、武田さんによるメンタリングはいかがでしたか?
岡島さんは、説明がとても丁寧な方だと思いました。アドバイスを言葉ではなく図形やフォーマットで説明していただき、“絵”としてスッと自分の中に落とし込むことができました。
武田さんとは、ピッチ資料やビジネスモデルの話をしたのですが、「3ステップでビジネスを展開していきましょう」と提案をもらいました。これは我々のビジネスのストーリーを構築するにあたって、大きなヒントになりました。また、忖度なくズバズバ意見を言ってくださるので、その点もありがたかったです。
お二人からのアドバイスを参考に、今年は資金調達を目指してがんばります。

研究室から生まれた技術を世の中に還元したい

――最後に、メドリッジが目指すゴールについてお聞かせください。
我々の事業の大きなモチベーションである、“がんで亡くなる方を減らす”。まずは、これを達成できるような道筋をしっかり作りたいと考えています。
また、「細胞分離」の技術にとどまらず、大学の研究室から生まれた技術シーズをどんどん外に送り出していきたい。現在、脳外科医のための手術トレーニングシステム事業も並走しており、今後も事業化できるものが出てくると思います。
エンジニアリング技術を世の中に還元するというミッションのもと、スピーディに技術を開発し、社会実装できる企業を作り上げていきたいです。

スーパーバイザーコメント

岡島 康憲
ハードウェア系のスタートアップ、アクセレーションプログラム、大学の創業支援プログラムなど幅広く支援している。自身もハードウェアの製造販売やプラットフォームを提供する会社を経営しており、経験を活かしたアドバイスが人気。
https://www.k-nic.jp/supportor/47/

非常に足腰のしっかりとした研究者・エンジニアという印象を持ちました。申請書類等を拝見し、メドリッジが取り組んでいる事業の素晴らしさを感じたので、これを世に出すための「出し方」の部分についてサポートさせていただきました。益田さんはコミュニケーション能力や説明能力が高く、いまのご自身の状況をきちんと説明して、相手を巻き込もうとするモチベーションのある方。この力は、スタートアップ企業には欠かせないもので、今後も彼の武器になる部分だと感じます。

「K-NIC Startup Hands on Program」とは
特定の技術シーズを持ち、NEDOが実施する研究開発型スタートアップ支援事業等へのエントリーを目指す起業家候補や研究開発型スタートアップに対し、短期集中の個別サポートを通して、起業の促進及び事業化の加速を目指すプログラムです。

①事業化支援
K-NICの支援人材による継続したメンタリングなどを通して、ビジネスプランのブラッシュアップや事業化に係わるアドバイスを実施。
※メンタリングの回数・頻度は、オンラインで月2回、1回あたり2時間程度。
②アライアンス支援
投資家やVC、協業可能性のある企業・連携先人材等の紹介・斡旋。
③資金獲得支援
NEDOをはじめとする各種公的資金の紹介や申請に係るアドバイスを実施。
ギャップファンドやVC、金融機関などの紹介・斡旋、金融機関の口座開設等に関わるアドバイス。

プログラムの詳細、募集についてはK-NIC運営事務局までお問い合わせください。
電話番号:044-201-7020(緊急事態宣言期間中は平日13時~20時)
メールアドレス:info@k-nic.jp

\動画もチェック!/
https://youtu.be/4pO7Ww75kTk