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イベントレポート「K-NIC Basic Seminar 逆戻りできないってホント?ゼロからわかる資本政策の考え方」

イベントレポート「K-NIC Basic Seminar 逆戻りできないってホント?ゼロからわかる資本政策の考え方」

後戻りできない、資本政策。
「資本政策って何から考えたらいいの?」の基本の基本を、資本政策のプロである前田サポーターにお話しいただきました!

登壇講師
前田信敏氏 K-NICサポーター
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、早稲田大学大学院商学研究科 ビジネス専攻修了(MBA/MOT)。
大和企業投資株式会社、ウエルインベストメント株式会社勤務を経て、2019年NV Ventures株式会社を設立。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業カタライザー、
文部科学省・大学発新産業創出拠点プロジェクト(現科学技術振興機構(JST)・大学発新産業創出プログラム)事業プロモーター、
内閣府技術委員・アドバイザー等を歴任。大学発を中心とする技術系スタートアップの支援に注力している。

こんな方におすすめ
・これからスタートアップ・ベンチャーを立ち上げようとされている方
・資本政策について、基本的な知識を学びたい方

目次

1.資本政策とは

スタートアップは、資金を、主に増資等エクイティーファイナンスに(株式)より調達し、その際に資金調達の額、経営権の維持、株式公開の計画等考慮し投資家に株式を割り当てます。
資本政策とは、このように”どの関係者に、どれだけの株式を割り当てるか”を考えた計画を整理したものになります。

例)

資本政策はなぜ必要か?
株式を関係者に与えると言うことは、関係者が、株主として、会社経営に参画すると言う意味を持ちます。経営者と考えの異なる意見を持つ関係者に多くの株式を与えると、経営の意思決定が迅速にできなくなる可能性が出てくるのです。

また、初期の資金調達で特定の関係者に多くの株式を与えてしまうと、他の関係者が参画しにくくなり、次の増資が難航する可能性があります。

さらに、株主として保有する株式を強制的に取り上げることは基本的にできません。
これらが「資本政策は後戻りができない」と言われる所以になるのです。

弊害が起きないように、資本政策を起業初期の段階からじっくり検討し、中身を吟味する必要があります。

2.スタートアップの資金調達において資本政策が重要な背景

デッドファイナンスとエクイティーファイナンスの違いを見ていきましょう。

デッドファイナンス(借入金)

デット、つまり融資で重要なポイントは会社の成長ではなく、返済できるかという点です。また、資金の出し手の経営参加権利はないので、資本政策としてはあまり関係がありません。かたや、エクイティーはというと…

エクイティーファイナンス(資本増強・増資)

資金の出し手から審査のポイントまで、エクイティーはデットと比べて、様々な点が違います。

特に以下が重要です。
●経営参加の権利は有り→資本政策必須
●どういう成長をするのか、株式公開はいつか、M&Aどこでできるのか・その際の株式価値はいくらか 計画を求められる
●審査のポイントは「成長できるか?」

返済義務がない、BS上でも資本になる等のメリットもありますが、出資側の経営参加権利は発生します。いつ・どのくらいのエクイティーにするのかは十分吟味が必要です。

会社のスタイル(スモールビジネス型とスタートアップ型)と資金調達方法の違いは?

スモールビジネス

スモールビジネスは徐々に成長が見込め、返済不可能のリスクも少ないので、融資が受けやすくなります。対して、スタートアップは…

スタートアップ

リスクが高いので融資を受けるのは難しくなります。よって、以下の手段から資金を調達することが重要になってきます。

○エクイティーファイナンス(増資やConvertible Equity)
L・ベンチャーキャピタル(VC)
・エンジェル
○補助金(特に研究開発型スタートアップ)

その中でも、エクイティーによる資本調達が主流になっています。

よって、スタートアップを立ち上げるときには、「エクイティーとしての資金調達をどうしていくかー資本政策をどうしていくか」を考える必要があるのです。

3.資本政策のポイント

ポイント1:後から修正は難しい

株主から株式を取り上げることは基本的にできません。
資金の引受者(VC等)にEXITの計画を約束する必要があります。また、前回の増資は次回の増資へ影響を与えます。
先々のことを考えた資本政策を、初期からしっかり運用する必要があります。

ポイント2:株価(バリュエーション)の決め方

会社評価額/時価総額(バリュエーション)は株価×株数で決まりますが、基本的にスタートアップの会社評価額に、絶対的な目安・算定式はありません。

標準的な考え方として、純資産総額、類似業種比準価額、DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法等も使われますが、最終的にはスタートアップとVCの相対での交渉で決まってくることが多いです。

ポイント3:持株シェア・議決権と資金調達額のバランス

事業の成長のために、必要な金額をエクイティーで集めるならば、経営者にとって、ある程度の持株シェアは希薄化します。
その場合に、会社法上の権利を確保する特殊シェア(3分の2以上や、過半数等)を意識することを忘れてはいけません。
また、ベンチャー企業がVC等に対して増資を行う際、多くが優先株式になりますが、優先株式が重要議案に関する拒否権を有していることが多いため、優先株主の特殊シェアにも注意が必要です。

これらをふまえ持株シェア・議決権を考える必要があります。

4.資本政策を作ってみよう!!

資本政策の作り方はそれほど難しくありません。
順を追ってみていきましょう。

ポイント1:事業計画及び利益計画を作成します。

(例)2022年7月期:売り上げ高100百万円 営業利益△100百万円
2023年7月期:売り上げ高1,000百万円 営業利益△200百万円
2024年7月期:売り上げ高3,000百万円 営業利益 100百万円
2025年7月期:売り上げ高6,000百万円 営業利益 800百万円
2026年7月期:売り上げ高10,000百万円 営業利益 2,000百万円

ポイント2:資金調達計画を作成します。
上記より、いついくらの資金調達額が必要か導き、それらの資金調達をどのように実行するかを計画します。

(例)2022年7月資金調達必要額: 200百万円
   2023年7月資金調達必要額  600百万円
2024年7月資金調達必要額  1,800百万円
2025年7月資金調達必要額  10,000百万円

ポイント3:エクイティーファイナンスによる資金調達計画を作成します。
この計画でいつに、いくらエクイティーファイナンスにより資金調達するかがわかります。

(例)2022年7月:100百万円(シードファイナンス)
2023年7月:400百万円(シリーズAファイナンス)
2024年7月:800百万円(シリーズBファイナンス)
2025年7月:5,000百万円(株式公開時の公募増資)

ポイント4:エクイティーファイナンスのラウンド毎の株価(バリュエーション)、株式の種類と割当先を検討します。

青線→どういう条件で資金調達するか  緑線→誰から資金調達するか

青、緑を決めれば雛形に沿って書くことで、資本政策ができてきます。
雛形はインターネットにあるもので十分要点を捉えられます。

ポイント5:全体のバランスを考慮し、上記のポイント①〜④の検討を見直します。
資金調達額の確保、経営権の維持、株式公開等投資家のエグジットの確保 の3点を主に考慮して、達成したい優先順位を意識し、全体のバランスを調整します(特に関係者の持株シェアに留意)

確認のポイントは「これで許容できるのかどうか?」です。もし、許容できないのであればもう一度戻って検討する必要があります。
手前の方から修正をかけていき、打開策がない場合は1から作り直し、1〜5を回すことで資本政策を作成します。

5.Q&A

Q:エグジットを求めない場合は、エクイティーによる資金調達は難しいのでしょうか?

A:VC等からは難しいです。VCはスタートアップ企業に投資した後、エグジットにより利益を得られるかどうかが肝になるからです。ただ、エクイティーはVCだけが引き受けるものではなく、例えば協力先のパートナーや提携先がエクイティーを入れて提携関係を強化することがあります。その場合は、提携先は事業に協力する事を求めているので、エグジットが明確でなくても問題ないことが多いと思います。その他にエンジェル投資家で明確にエグジットを求めていない人もいます。

Q:資本政策と資金調達は何度も行き来するものなのですね。完成の見極めなどあるのでしょうか?

A:事業計画が上流にあるため、見極めはなかなか難しいですね。そういう時は、専門家と相談できる個別相談会などを利用されると良いと思います。

Q:出口戦略をIPOにするのか、M&Aにするのかは、最初期に設定しなければならないのでしょうか?

A:そんなことはありません。ただ資本政策としては、IPOとM&Aだと変わってきます。よって、基本的にはIPOのための資本政策、M&Aのための資本政策の2つ作る必要がありますね。その際に「1つにしてくれ」と要望があるかもしれませんが、投資家の考えに合わせて選択をすればよいと思います。

前田サポーターはK-NICの企業・経営相談会にて、個別相談会にもご対応いただいています。
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