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起業家インタビュー

デジタルセラピューティクスで 糖尿病治療を変える! ~Deep Techへの挑戦~

デジタルセラピューティクスで 糖尿病治療を変える! ~Deep Techへの挑戦~

川崎市にある起業家支援拠点&コワーキングスペース・K-NICを利用しながら活躍されている起業家に、
起業までの軌跡やK-NICの便利な活用方法などをインタビューするシリーズ。

今回は、先日NEDOのNEPにも採択された、株式会社ザ・ファージ 德永さん・志連さんにインタビュー!
外資系大手企業出身の德永さんと、デザイナーの志連さんが何故Deep Techスタートアップを起業されたのかをお伺いしました。

起業家プロフィール

株式会社ザ・ファージ 德永氏
大学卒業後、スタートアップを始め複数の医療機器ベンチャーの立上げに参画。現在、外資系大手企業にてヘルステック領域(バイタルモニタ・システム)のプロダクトマネージャーにて、Upstreamのマーケティング業務に従事。その後、2021年にプログラム医療機器の開発を行うTHE PHAGEを設立し今に至る。

株式会社ザ・ファージ 志連氏
2009年にデザイン会社スキーマを設立。2014年から東京と台北の2拠点活動をSTARTし2015年に台湾に輪廓設計有限公司を設立。GermanDesignAwardやRedDotDesignAward等、海外のデザイン賞を受賞。2018年に広島の尾道で平飼いのニワトリと出会い養鶏事業に携わる。その後、2021年にプログラム医療機器の開発を行うTHE PHAGEを設立し今に至る。

株式会社ザ・ファージ 

人の行動変容を促すことで、社会課題を解決したい

事業について教えてください。
(德永さん)
誰もが自身で血糖コントロールできる社会の実現を目指しています。
私たちが取り組む社会課題は、糖尿病予防、特に2型糖尿病予防による医療費の削減です。2型糖尿病患者は、健常者よりも高率で鬱症状を発症すると言われています。鬱症状が発症すると、服薬や治療の継続が難しくなり、その結果として病状が悪化してしまう。これを私たちは「重症化JUMP」と呼んでいます。
何故、糖尿病治療において鬱症状が増えるのか、私たちは2つ理由があると考えています。1つは医学や栄養学等の専門性が非常に高いため患者の理解が追い付かないこと、もう1つは「“血糖コントロールにおいて”自分に合う食事がわからない」いう食事選択への悩みが延々続くことです。
その解決策として、私たちは1食ごとの食後血糖値を波形解析してスコアアリングし、それを指標に血糖コントロールをするためのデジタルセラピューティクスを開発しています。

外資系大手企業でキャリアを築かれていた德永さんが、スタートアップを起業したのはどうしてですか?
(德永さん)
一番のきっかけは自分の経験です。昔、私の父が重度の躁鬱病に罹りました。とても優秀な人だったのですが、病気の期間中は働くこともできませんでした。投薬をしても病院を回っても上手くいかず、結局自分自身の行動変容で治すしかありませんでした。
その後、縁があって1型糖尿病の友人とプロジェクトを進める事があり、その際に糖尿病の患者さんが鬱になりやすいことを知りました。その原因は常に血糖値(バイタル)と向きあわなければならないことです。何を食べればいいのか、何を食べない方がいいのかという悩みを延々持ち続けているのが糖尿病患者です。
大学時代からセンサを専門にしていたことと、血糖値センサが世に開かれている技術だったことから、「患者さんが自身で簡単に血糖コントロールできる技術・プロダクトを作れるんじゃないか、そしてそれは患者さんの行動変容をもたらし、鬱・重症化JUMPも防ぎ、世の中のためになるのではないか」と思い起業しました。

原体験が根底にあったのですね。志連さんとの出会いはどのようなものだったのでしょうか?

(德永さん)
先ほどの1型糖尿病の友人とのプロジェクトを通じで出会いました。1年くらいじっくり志連さんと話をして、起業してからも現在の事業開発にたどり着くまでずっとディスカッションしていましたね。

ここで共同代表の志連さんにもお伺いします。志連さんはデザイナーでいらっしゃいますが、デザインとTHE PHAGEの共通点はありますか?

(志連さん)
私たちが取り組んでいる事業は、医師がアプリを薬として処方することができるものです。日本で薬事承認を受けた治療用アプリは数社しかありませんが、今後、治療用アプリが各社から続々とリリースされる予定です。
これらのアプリはどれも患者に行動変容を促す箇所がポイントなので、アプリ開発においては適切なUXデザインが必要不可欠となります。「患者が自らの意思で行動を起こすにはどうしたらよいか」という問いを解くために、医師や患者の感情や行動を1つ1つ確認して作り上げていくのですが、この制作工程は普段デザイナーが行っている考え方そのものなので、これまでのデザイン的知見が活かせると思いました。

御社が掲げている「おいしいを可視化する」とは?
(德永さん)
長期的な方向性として、医療からヘルスケア、ウェルビーイング迄拡張させたいと考えています。
「おいしいの再定義」とは、感情を行動変容ホルモンに紐づいたバイタルデータを複数使って、評価することです。「おいしい」「嬉しい」等人の気持ちをバイタルデータ・デジタル情報と統合させることで、新しいデジタルバイオマーカーを作り「体や心にとって本当においしいものって何だろう」を定義・評価できれば、それが心身の健康に繋がると考えています。

このアプリの推しポイントはどこでしょう。
(德永さん)
医療を高品質化できるのがポイントです。目標とするHbA1cを設定すれば、食べていいものをプログラムが規定し、目標に対して摂った食事がどうだったのかの定量評価が出来ます。今までお医者さんが経験則として指導していたことを評価できるのは、世界初の技術だと思います。

K-NIC Startup Hands-on Programに参加して

K-NIC Startup Hands-on Programはどうでしたが?
(德永さん)
非常に勉強になりました。参加して本当に良かったです。岡島SV・前田サポーターが担当メンターでした。
岡島さんは最新テクノロジーにとても詳しく、血糖値センサ自体もご自身で試されて当事者の立場で何が良いかを評価してくれるのが良かったです。前田さんはDeep Tech専門でVCとしての知識・ご経験も豊富で、具体的な投資の方法や投資の評価のポイントも専門家としての目を持って指導くださったので何を改善すべきかがはっきりわかりました。NEDOのプログラムへの参加は障壁が高いと思っていましたが、K-NICのようなNEDOと起業家の間に存在する拠点から、適切な指導を受けることで、自分たちの課題が顕在化し、どういうルートで自分の事業計画を組んでいくかがはっきりわかりました。売り上げが深いJカーブになるDeep Techでは見通しが考えられたのはありがたかったですね。
また、武田SVはこの領域にとても詳しいので、最新のことを教えてくれましたし、尾崎SVも親身になって話を聞いてくれましたね。

これからの展望

これからの展望を教えてください。
(德永さん)
保険適用・収載ができるアプリ開発を目指しています。NEDOの支援をいただきながら、製品の開発を進めていきます。臨床結果を出して治験に進みたいので、VCやエンジニアの方にぜひ仲間になっていただければと思っています!アカデミア寄りの臨床心理士の方、病院関連の方ともお話をさせて頂きたいと思っています。

これから起業したい方に一言!
(德永さん)
スタートアップを目指す方は、現代の技術と今後来るだろう技術との乖離から、現状に悩んだり、未来への不確実性の高さから諦められたりするかもしれません。
でも本当に好きなことなら、誰よりもその近くにいれば必ず見えることがあります。好きに邁進できることって本当に幸せなのでおすすめです。そこで困ったことがあればK- NICに相談したらいいと思います!
(志連さん)
人生一度きり!笑

株式会社ザ・ファージ